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詩を詠む

18 レス · dat原文

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「冬」 「伊藤比呂美」
 冬になると、私たちの回りは、根菜類ばかりになる。
秋に穫れるイモ類やニンジン、葱を私たちは厳重に布でくるみ、冷たい場所に置いておく。
たとえば地下室。階段をおりてゆくと、空気は途端に冷たく単純になる。 くらやみに慣れてくると、その棚いちめんに、でこぼこした麻の袋が置かれてあるのに気づく。
階段の下もでこぼこの袋でいっぱいだ。懐中電燈にてらされて、袋は影をかかえている。ひょっとした拍子に、袋がもぞっと動いたような気もする。それほど、ならぶ袋たちは立体的にでこぼこである。
私たちは二~三日に一ぺんくらいずつ、やさいを取りに来て袋をあける。
 古い年のうちに、葱は食べつくされてしまう。葱はイモのようには長くもたないのだ。私たちは十二月にはいると、葱を急いで消費する。毎日、葱汁をのむ。
十二月も半ばをすぎると、葱の青い部分からどろどろに溶けてくる。私たちは、残った葱をすべてさくんざくんに切り、あたらしくあけた袋からジャガイモを取って、いっしょくたに煮こむ。発酵した豆で調味されるこのスウプに、私たちは新鮮なイモのだしを味わって、満足である。
それ以後、ニンジンとイモ類からヴィタミンをとり、四か月を暮らす。
 雪というものがふらない冬である。 ただ、大地から、木々から、家々から、すべてが温度を失っていく。 空気が奇妙にひくく垂れこめて、景色は、空の下にぎっちり圧(お)しつぶされた様子を見せる。
冬も深まるにつれ、澱(よど)むようだった空気から湿度がひいていく。そこいらいったいぱりぱりに乾き、痛いくらいまで冷たくかたまる。
道は空洞になったように思われ、表面を固いもので、カン、と叩くと、音はカラコロカラコロ転がっていってしまう。道の行きどまりに立つ壁にぶつかってはね返る音が聞こえる。
 そのころ、〈じんのそり〉とよばれる北西の風が吹くようになる。息のねににた絶えまない風は、なにもない路上に小さなたつまきをうみ、乾いた土や木のかけらをあつめ、私たちの衣服のすきまからはいりこんで皮膚をかすめる。
〈じんのそり〉という名も、冬の尽きるころ=尽(じん)に吹く刃物のような風という意味だろう。あるいは、刃=じんを補って、そりをつけたのかもしれない。
しかし、すべてを吹きはらう風は空を美しくする。昼間は蒼々として高いところにつづき、夜は星で埋めつくされる。冬には青白く瞬きの激しい一等星が多くなる。
 私たちは、この寒さを〈あざやぎ〉とよんで、厚い毛織のオーヴァを着て道をあるく。
「ありがとうございました」 「また来ますね」 https://i.imgur.com/ZD8ZHP3.png