112 - 名無しさん 2023/02/11(土) 18:10:05 ID:690a86ba0D-2b68-6c8b
二人の夫婦生活は、必ずしも幸福だとは言えなかった。私は、カフェにいた当時のような魅力を、妻としてのみな子には決して見出ださなかった(それは当然だが)。彼女は、妙に内気で、平凡で、少し退屈すぎる女であることがわかった。ことに西洋人の女学校を出たに似ず、書物にはまるで興味がないらしく、新聞すらつづき物の新小説以外にはあまり読みたがらんくらいだった。そのかわり、彼女はうるさく何やかを私に要求することは絶対になかったし、何事に対しても私の意見に異議を唱えることもなかったので、一見したところでは、第三者には極めて幸福な家庭といえただろうと思う。とにかく平和な家庭であることは事実だった。