【唐澤貴洋殺す】雑談★26【視覚障害者説】 (1000)

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303 核撃てば尊師 (sage) 2013/05/24(金) 21:48:27 ID:JWZAK.U20

神谷の指示通り、常に気を張っていたお陰か、誰が立ち上がり発言したのかしっかりと見ていた。
その男性は少し離れた席に座っており、セールスマンを想像させるような機敏な動きで立ち上がった。
「少し良いですか」
他愛も無い、行き交う会話の波の中に埋もれてしまっても不思議ではない程度の発言なのに、辺りは静まり返った。それは彼が発した声の特質による物に他ならない。皆がその男性を見ている。まるで次の発言を煽っているかの様だ。
「拝見させてもらっていたのですが、どうやら慰謝料のことで揉めている様ですね。良かったら私がその話をまとめましょうか」
滑舌の良い耳に残る声だ。しかし言ってることはまるでおかしい。
「あんたは誰なんだ。部員の父親じゃないよな」香坂大地の父親が威勢良く発言する。大地は座っていた前の席が倒れ身動きが取れなくなり、窒息死をしていた。父親からすればネクタイを締め上げ息子の苦しみを味合わせたいと思っている位、バス会社の社員を憎んでいるだろう。
「私は弁護士の唐沢です。そちらの女性の依頼でこちらに来ました」
唐沢と名乗った者は一人の母親に礼をした。その母親は困ったように顔を下げている。その母親の家の事情は知っていた。ほんの数ヵ月前に離婚をしていた。 母親一人では不安だったから弁護士を雇い、自分に変わって慰謝料の請求をするように依頼したのだろう。唐沢がどの様にして彼女に近付いたのかは分からないが。
しかしそれはあくまで彼女一人の慰謝料の請求をするだけのはずだ。その証拠にその母親も全員の慰謝料を整理するという唐沢の発言に面食らっているように見える。
「出て来たな。あれが唐沢か」敬は唐沢から目を逸らさずに話掛けてきたた。
神谷との会話を思い出した。
「弁護士?鞄会社の社員じゃないのか」
「社員です。社員ですが彼は販売や生産をする担当では無く、著作権等の法的な問題が起きた時に解決する為に雇われてます。もちろん弁護士の資格を持っています」誰もが難しいと知っている司法試験を通過した男。強敵なのは間違いない。
 唐沢は次の言葉を発した。
「皆さん少し落ち着いて下さい。まとまりがないとそのバス会社に上手く慰謝料を誤魔化されてしまいますよ」抑揚を上手く付け強調するべき所は何処かを知り尽くしているかのような話し方だ。
辺りが騒めき始めた。話をまとめると言ったのに騒ぎを煽っているという矛盾には誰も気付いていない。
「そんな事はない」と強く代表者は反論した。
「そうでしょうか。私には被害者の皆さんの混乱を煽っている様に見えましたが」
実際の所はそんな動作をバス会社の代表者達はしていないと思った。しかし、怪しいと言われればほんの些細なことで不可解に思ってしまうのが人間なのだということを今の周りの現状を見て実感した。
その雰囲気を察知したのか、唐沢は更に続けた。
「私は弁護士です。最大の慰謝料を手に入れる術を知っています。どうでしょう。私に一存して頂けませんか?」
冷静に考えればおかしな話だと分かる。突然出現した全員が初対面の人間が重要な話し合いを全て自分に任せろと言っているのだ。一蹴されて当然な提案である。
しかし、その場の雰囲気もまた異質な物となっていた。誰もが唐沢が発する一語一句を聞き漏らさまいとしていた。例えるなら悪徳宗教の教祖と信者の様な状態である。一度信じ切った人物を疑うというのは非常に難しいらしい。
「私は彼に任せてみようと思う」
会議室内にいた誰かの一言がきっかけとなりその場にいる全員が一つの決断を下してしまった。