3864 来世はカメムシ 2023/10/06(金) 00:13:09.69 ID:cK/bp2nD0
任せろ😡
大学で野球部に入っているお兄ちゃんは、帰りが遅くなることが多い。
だから和香は学校から帰宅する時、いつも祈りながら扉を開ける。今日はお兄ちゃんが早く帰ってきていますように。今日くらい部活がお休みになりますように。お兄ちゃんが休みの日に、勉強を見てもらうのが和香の大事な楽しみだった。
今日もまた、願掛けしながらドアノブを握る。
「ただいま」
ドアを開けたとたん、和香はその場に凍りついた。玄関に一足、可愛いミュールが置いてある。お兄ちゃんの靴の横に、寄り添うように並んでいる。これはお母さんの靴じゃない。もっと若い大人の女の人が履く靴だ。世界にはこんなに可愛い靴があって、それを履く人がいることにも驚いた。和香はヒールのある靴を履いたことがない。
(誰?)
和香は震える手で玄関にあるミュールをつかんだ。艶やかなエナメルの高そうな靴だった。細いヒールには傷一つついていない。
(……まさか。まさか。まさか。血の繋がっていない姉がいたの? 女友達? まさか、彼女、だなんてことは)
めまいに襲われて、玄関で両膝をつく。
(……今までこんなことなかったのに、どうしていきなり……? この人がお兄ちゃんに近づく理由は? ……ああ、わかった。プロ野球選手の妻になりたいのね。私のお兄ちゃんは試合で大活躍して、ドラフトから指名されるような素晴らしい選手になって、メジャーにも行く予定だから……手の届かない存在になる前に目をつけておこうって算段なんだわ)
和香はミュールを握り締めながら、決意した。
(……阻止しなきゃ。お兄ちゃんのためにも)