ハチナイ、ハチナイ (1001)

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28 来世はカメムシ 2024/01/04(木) 23:40:34.48 ID:7OAhkDd+

「わー、あの人かっこいいね」
「鈴木君? わかるー! わたしも前から狙ってた! あの人絶対プロ野球行くし!」
「えーすごーい、かっこいいー」
お兄ちゃんの姿をみて女子たちが沸き立つ。和香は彼女らに冷たい視線を送る。
「……ここはアイドルのライブ会場じゃない……野球観戦する場所よ……」
和香のぼやきは派手な応援にかき消され、誰の耳にも届かない。
下唇をそっと噛む。お兄ちゃんの事を何も分かっていない女子たちの黄色い声援を聞くと、試合を放り出して一人で帰ってしまいたくなる。

お兄ちゃんのこと、応援してるわ。
それが和香の口癖だった。
お兄ちゃんは、ありがとう、と優しい笑みを浮かべる。
一生懸命応援するから……これからも、私だけのお兄ちゃんでいてね。
そう言うと、お兄ちゃんはいつも決まって、肉刺だらけの固い手で和香の頭を撫でてくれた。
昔はそんなお兄ちゃんから離れられず、毎日のように野球場に通っていたけれど、今では大事な試合のみ応援しにいくようにしている。お兄ちゃんが野球を頑張っている間、私は野球の研究を続けたい。そしてお兄ちゃんがもしもつまづいてしまった時に、的確なアドバイスができるような妹になりたいと思っている。