特急やくも (12)

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4 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2022/02/17(木) 13:53:12.93 ID:XSs1s+6/0

唐澤貴洋という弁護士は僕よりも5歳年上の弁護士で、匿名掲示板やSNSトラブルといったものが専門の弁護士である。
ネットに強い弁護士を意味する「インターネット弁護士」を名乗ったのは、唐澤貴洋が最初であり、現在でもインターネット弁護士を名乗る弁護士は唐澤貴洋以外に聞かない。
この業界では、依頼人に書き込み主を開示依頼を受けてから現場に乗り込むまでの早さが極めて早いことから、JR東日本の東京ー甲府間を運行する特急かいじの名を借りて、特急かいじと言われているようだ。
開示の成功割合は高くないものの、速やかな問題解決を求める者が唐澤貴洋に頼ろうと、連日事務所には多くの依頼人が訪れるのだ。
そのような者は男性もいれば女性もいる。
男性の場合、多くはなんJやニュー速といった2ch(現在は5ch)や爆サイ、はたまたダークウェブでのトラブルが原因のようだ。
匿名なら何を言ってもいいと勘違いをして過去にばらまいたパズルピースを元に個人情報を特定されてしまった者や匿名化を怠って国セコに捕まってしまった者もあった。
彼らは恐らく匿名掲示板が自己主張の場ばのであろう。
ドライオーガーズムの快感を教え込ませたいというのが本音なのだが、如何せんオスの依頼人を見ると自分がイきたくなり、葛藤した気持ちに耐えられなくなってしまうのだ。

12月29日、この日は仕事納め。
珍しく唐澤貴洋が事務所の皆と打ち上げを開催すると言って、板橋区にある越後屋という居酒屋に僕たちを招待した。
この店はマンコーというあだ名の店長の手打ち蕎麦が売りのようであり、蕎麦アレルギーの者がいなかったのでみんな蕎麦を注文した。
唐澤貴洋は蕎麦2枚に加えて開示丼というどんぶりも注文したので、僕もそれを注文することにした。
何となく、唐澤貴洋と一緒のものを注文したかったからである。
すると唐澤貴洋が「山岡君、通ナリね。この店は当職の常連だから当職のためにいつもこのどんぶりを作ってもらっているナリよ。君も常連ナリか?」と僕に話しかけてきた。
僕はどきっとした。
というのも仕事以外の会話をしたことがほとんどなかったからである。
衝撃からか肛門も緩み早くもお漏らししかけたのでこの場は曖昧な返事でやり過ごした。
後から「嫌われてしまったかも。」という悔恨の念がこみ上げてくる。
それでも唐澤貴洋の今まで知らなかったプライベートの話が聞けるかもと期待する思いが勝ったのは事実なのである。

打ち上げは非常に盛り上がった。
見た目通り、唐澤貴洋は大食漢で大酒飲みだった。
とは言え、お酒にはあまり強くはないらしく、飲みの席も中盤になった頃には呂律が回っておらず、意識が飛び飛びになっていた。
唐澤貴洋は終始自分の趣味であろう競馬やアイドルの話、そして胡散臭い政治語りをしていた。
アイドルが好きというのは少々意外であったのだが、ここでふとこんなことを思う。
「酔っている今なら急接近できるのではないか?」と。
今まで僕からは遠い存在にいる唐澤貴洋が手の届く範囲にいると感じた。
僕は決心した。
唐澤貴洋が外に痰を吐きに行ったタイミングでビールをグラスに注ぐ際に薬局で買ってきた睡眠薬を入れた。
唐澤貴洋はビールを飲んで間もなく酒の力もあってかいびきをかいて寝てしまった。
それから数分経って皆で割り勘する。
唐澤貴洋をどうするかという話も出たが、自分が家まで送り届けると言ってその場は片付いた。
とは言っても車は持ってはいないのでタクシーを呼んで唐澤貴洋を連れ出すことにした。
策は功を奏し、唐澤貴洋と2人きりになることに成功した。
時間もなくしてタクシーがやって来た。
運転手は行き先を尋ねる。
僕は弾んだ声でとある歌舞伎町のラブホテルを行先に指定したのだった。