詩を詠む (29)

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1 野に咲く名無し@転載禁止 (d599339b) 2024/07/01 (月) 20:01:44.069 ID:0W6w24RfW主

「またきました」
「詠みますね」
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2 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:02:09.511 ID:0W6w24RfW主

「I was born」
「吉野弘」

3 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:02:28.101 ID:0W6w24RfW主

 確か 英語を習い始めて間もない頃だ。

4 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:02:42.136 ID:0W6w24RfW主

或(あ)る夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくと 青い夕靄(ゆうもや)の奥から浮き出るように 白い女がこちらへやってくる。物憂げに ゆっくりと。

5 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:02:54.994 ID:0W6w24RfW主

 女は身重らしかった。

6 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:03:12.727 ID:0W6w24RfW主

父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から眼を離さなかった。頭を下にした胎児の 柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し それがやがて世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。

7 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:03:23.278 ID:0W6w24RfW主

 女はゆき過ぎた。

8 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:03:40.904 ID:0W6w24RfW主

 少年の思いは飛躍しやすい。その時 僕は〈生まれる〉ということが まさしく 〈受身〉である訳を 諒解(りょうかい)した。 僕は興奮して父に話しかけた。

9 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:03:51.245 ID:0W6w24RfW主

――やっぱり I was born なんだね――

10 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:04:02.571 ID:0W6w24RfW主

父は怪訝(けげん)そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。

11 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:04:14.425 ID:0W6w24RfW主

――I was born さ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。 自分の意志ではないんだね――

12 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:04:34.354 ID:0W6w24RfW主

 その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。

13 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:04:45.029 ID:0W6w24RfW主

それを察するには 僕はまだ余りに幼なかった。僕にとってこの事は文法上の単純な発見に過ぎなかったのだから。

14 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:04:57.585 ID:0W6w24RfW主

 父は無言で暫く歩いた後 思いがけない話をした。

15 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:05:10.965 ID:0W6w24RfW主

――蜉蝣(かげろう)という虫はね。生まれてから二、三日で死ぬんだそうだが それなら一体 何の為に世の中へ出てくるのかと そんな事がひどく気になった頃があってねー―

16 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:05:19.710 ID:0W6w24RfW主

 僕は父を見た。父は続けた。

17 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:05:32.532 ID:0W6w24RfW主

――友人にその話をしたら 或日(あるひ) これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。

18 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:05:48.502 ID:0W6w24RfW主

説明によると 口は全く退化して食物を摂るに適しない。胃の腑(ふ)を開いても 入っているのは空気ばかり。見ると その通りなんだ。

19 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:06:09.999 ID:0W6w24RfW主

ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて ほっそりした胸の方にまで及んでいる。

20 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:06:19.261 ID:0W6w24RfW主

それはまるで 目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみが 咽喉もとまで こみあげているように見えるのだ。

21 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:06:33.075 ID:0W6w24RfW主

淋しい 光りの粒々だったね。私が友人の方を振り向いて 〈卵〉という彼も肯(うなず)いて答えた。〈せつなげだね〉。

22 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:06:42.658 ID:0W6w24RfW主

そんなことがあってから間もなくのことだったんだよ、お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのは――。

23 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:06:56.694 ID:0W6w24RfW主

 父の話のそれからあとは もう覚えていない。ただひとつ痛みのように切なく 僕の脳裡(のうり)に灼きついたものがあった。

24 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:07:01.095 ID:0W6w24RfW主

――ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体――。

25 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:07:25.224 ID:0W6w24RfW主

「ありがとうございました」
「また明日来ますね」
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26 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:08:22.295 ID:f0g2OQ1rC

??

27 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:16:52.979 ID:Jg30X3BL0

うん🥲

28 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:17:43.084 ID:oxKOBB68t

😞

29 野に咲く名無し@転載禁止 2024/07/01 (月) 20:17:54.367 ID:U86thv1W5

🥺おつ