1 野に咲く名無し@転載禁止 (44c346e4) 2025/09/04 (木) 23:34:38.943 ID:p6QGD7tC0主
琴葉茜のウォールハック・チャレンジ
「なあ、葵」
茜はむくりと起き上がると、リビングの壁をコンコンと叩き始めた。
「公園みたいなオープンワールドじゃなくても、こういう箱庭みたいな家の中にも、絶対バグポイントはあるはずやねん!」
「やめてください」
葵は即答した。
「家の中で壁に埋まって、二度と出てこられなくなったらどうするんですか。私一人じゃ家賃が払えません」
「大丈夫やって!うちは不死身やし、最悪壁壊して出てくるわ!」
聞く耳を持たない茜は、リビングの隅にある、壁と壁が直角に交わるコーナーに目をつけた。
「ここや…!いかにも判定が甘そうな角や…!」
彼女はゲームのキャラクターがよくやるように、その角に向かってジャンプし、着地と同時にしゃがむ、という動作を何度も繰り返し始めた。
ピョン、スクワット。ピョン、スクワット。
「…お姉ちゃん、何してるんですか」
「『角抜け』の基本や。こうやって判定の隙間に体をねじ込むねん。…お!きたきた!見てみ、葵!足がちょっと壁にめり込んどる!」
見ると、茜の足首あたりが、ありえないことに壁の中に数センチほど埋まっていた。
「お願いですから、本当にやめてください。マップの外に落ちたら、この世界からデリートされちゃうかもしれませんよ!」
葵の悲痛な叫びも、茜の耳には届かない。
「もう少しや…!あとちょっと角度を変えれば…!」
茜がさらに体をねじ込んだ、その瞬間。
ズズズズズ…
まるで壁が液体になったかのように、茜の体がゆっくりと、しかし抵抗もできずに壁の中へと吸い込まれていった。
「あ」という間抜けな声を最後に、茜の姿は完全に壁の向こうへと消えてしまう。
「お姉ちゃん!?」
葵が慌てて壁を叩くが、コンコンと硬い音がするだけ。何の反応もない。
2 野に咲く名無し@転載禁止 2025/09/04 (木) 23:34:57.602 ID:p6QGD7tC0主
(一方、壁の中の茜)
「うおお!ほんまに壁抜けできた!」
一瞬、家の骨組みや電気の配線が透けて見える、いわゆる「デバッグモード」のような視界が広がった。しかし、それも束の間、すぐに視界は完全な暗闇に包まれた。
(あれ?動かれへん…!っていうか、息苦しい!)
前後左右を石膏ボードと断熱材に挟まれ、身動き一つ取れない。圧迫感がすごい。石膏の粉っぽい匂いが鼻をつき、断熱材のガラス繊維が肌に触れてチクチクする。
(あかん!これ、ゲームみたいに簡単な裏世界ちゃう!ガチで物理的に閉じ込められとるやつや!)
焦った茜がもがくと、体が何かに強く引かれるような奇妙な感覚に襲われた。まるで、巨大な掃除機に吸い込まれるように、暗闇の中を猛スピードで移動させられていく。
(うわあああ!どこ行くんやこれー!?)
(その頃、葵は)
「お姉ちゃーん!聞こえますかー!」
葵が壁に向かって叫んでいた、その時。
隣の部屋、トイレの方から、**「ゴボゴボッ!がはっ!」**という、水に溺れているような奇妙なくぐもった声が聞こえてきた。
「…まさか」
嫌な予感を胸に、葵がトイレのドアを勢いよく開ける。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
ちょうどジャーッと水が流れている最中の、便器の中から、びしょ濡れになった茜が「ぶはぁっ!」と顔を出したのだ。
「なんでやねーーーーん!!!」
茜の魂の叫びが、トイレ中に響き渡る。
「壁抜けしたら、なんで出口が便器やねん!おかしいやろ、このバグ!」
びしょ濡れで、なぜかトイレットペーパーの欠片を頭にくっつけた姉の姿を前に、葵は冷静に分析を始めた。
「なるほど…壁の中の座標データが、この家で最も複雑な配管経路を持つトイレの座標データと混線した結果、一番近い排出ポイントである便器内に、水流のタイミングで強制的にリスポーン(再出現)した…と考えるのが妥当ですね」
「ごもっともな解説はええねん!うう…なんか体中臭いし、冷たい…」
茜はぶるぶると震えながら、よろよろと便器から這い出した。
葵は、鼻をつまみながら、心底軽蔑した目で姉に告げる。
「…とりあえず、お風呂に入って、全身を徹底的に消毒してください。話はそれからです」
「もう二度と…家で壁抜けは試さん…」
床に水たまりを作りながら、茜は固く、固く誓うのだった。
おわり
3 野に咲く名無し@転載禁止 2025/09/04 (木) 23:39:03.207 ID:p6QGD7tC0主
!pool
4 野に咲く名無し@転載禁止 2025/09/04 (木) 23:39:07.962 ID:p6QGD7tC0主
!pool