176 名無しさん (ワッチョイ) 2023/03/16(木) 23:33:53 ID:XbmJOydl00主
耳障りな程の歓声と、目に飛び込んでくる砂埃に支えられ、次第に視野ははっきりと、かつ急速に広がっていく
目の前にはゴールテープ、周囲には選手たち
走らねばならない事はわかるが、少年は困惑していた
足、腕、顔に至るまで、人間の感覚が無いのである
なぜ走らねばならないのか、なぜ自らは人間ではないのか
その様な苦しみが、少年なりに実感していた、走る義務さを優越していた
ただ、そこにかまけている少年ではなかった
次第に視野と共に記憶も手に戻っていたのである
病気の母を救おうと、賞金を目当てに王国が開くレースに参加した、必死だった少年時代
妨害を目論んだ王派遣の対抗馬にも勝利し、隠ぺいをしようと時たまやってくる居ってからの逃走
母は賞金で救えたが、いつの間にか少年は、勝負自体への熱心さも手にして居たのである
寿命でおいて朽ちていく母に、耳元で言われたあの言葉
私が死んでも、どうか勝ち続けてね
その言葉と共に、今人間でなくなった少年は、再びゴールテープをその手に触れさせたのであった