600 20歳代のふたりの男の子は真新しい揃いのトレーニングウェア姿で、男性(52)は季節はずれの半袖パーカーを着ていた。 (半袖パーカーを着ていた。) 2018/03/13(火) 22:38:34.91 ID:obwmAI0l0
そば屋にとって一番のかき入れ時は大晦日である。
島田屋もこの日ばかりは朝からてんてこ舞の忙しさだった。
いつもは夜の12時過ぎまで賑やかな表通りだが、夕方になるにつれ家路につく人々の足も速くなる。
10時を回ると島田屋の客足もぱったりと止まる。
頃合いを見計らって、人はいいのだが無愛想な主人に代わって、常連客から女将さんと呼ばれているその妻は、
忙しかった1日をねぎらう、大入り袋と土産のそばを持たせて、パートタイムの従業員を帰した。
最後の客が店を出たところで、そろそろ表の暖簾を下げようかと話をしていた時、
入口の戸がガラガラガラと力無く開いて、2人の子どもを連れた男性が入ってきた。
20歳代のふたりの男の子は真新しい揃いのトレーニングウェア姿で、男性(52)は季節はずれの
ニューヨークヤンキースの半袖パーカーを着ていた。
「いらっしゃいませ!」 と迎える女将に、その男性(52)はおずおずと言った。
「あの…かけそば…1人前なのですが…よろしいでしょうか」
後ろでは、2人の子ども達が心配顔で見上げている。
「えっ…えぇどうぞ。どうぞこちらへ」
暖房に近い2番テーブルへ案内しながら、カウンターの奥に向かって、
「かけ1丁!」と声をかける。
それを受けた主人は、チラリと3人連れに目をやりながら、
「あいよっ! かけ1丁!」とこたえ、金玉そば1個と、さらに半個を加えてゆでる。金玉そば1個で1人前の量である。
客と妻に悟られぬサービスで、大盛りの分量の金玉そばがゆであがる。
テーブルに出された1杯のかけそばを囲んで、額を寄せあって食べている3人の話し声がカウンターの中までかすかに届く。
「おいしいね」と兄。
「お父さん(52)もお食べよ」と1本のそばをつまんで父親(52)の口に持っていく弟。
やがて食べ終え、334円の代金を支払い、「ごちそうさまでした」と頭を下げて出ていく高橋父子3人に、
「ありがとうございました!どうかよいお年を!」
と声を合わせる主人と女将。