7 無名弁護士 2018/06/04(月) 20:49:27.32 ID:iLIUGO7D0
泌尿器科にとって一番のかき入れ時は大晦日である。
高知TKS病院AKI診療所もこの日ばかりは朝からてんてこ舞の忙しさだった。
頃合いを見計らって、人はいいのだが無愛想な院長に代わって、
常連客から若先生と呼ばれているその息子は、
忙しかった1日をねぎらう、大入り袋と土産のそばを持たせて、非常勤の看護師たちを帰した。
最後の患者が店を出たところで、そろそろ表の暖簾を下げようかと話をしていた時、
入口の戸がガラガラガラと力無く開いて、
2人の子どもを連れた男性が入ってきた。
20歳代のふたりの男の子は真新しい揃いのトレーニングウェア姿で、
男性は季節はずれのニューヨークヤンキースの半袖パーカーを着ていた。
「いらっしゃいませ!」 と迎える息子に、その男性はおずおずと言った。
「あのー......44万円なのですが......よろしいでしょうか」
後ろでは、2人の子ども達が心配顔で見上げている。
「えっ......えぇどうぞ。どうぞこちらへ」
煖房に近い待合室の2番テーブルへ案内しながら、カウンターの奥に向かって、「かけ1丁!」 と声をかける。
それを受けた院長は、チラリと3人連れに目をやりながら、
「あいよっ! かけ1丁!」とこたえ、金玉そば1個と、さらに半個を加えてゆでる。
金玉そば1個で1人前の量である。
CEO(52)と息子に悟られぬサービスで、大盛りの分量の金玉そばがゆであがる。
待合室で出された1杯のかけそばを囲んで、額を寄せあって食べている3人の話し声が
診療室の中までかすかに届く。
「おいしいね」と兄。
「お父さんもお食べよ」と1本のそばをつまんで父親の口に持っていく弟。
やがて食べ終え、440円の代金を支払い、「ごちそうさまでした」と頭を下げて出ていく父子3人に、
「ありがとうございました!どうかよいお年を!」と声を合わせる院長と若先生。