63 『懐妊』 2018/06/24(日) 20:41:46.68 ID:m/xhHWCI0
ずぐり、ともぬるり、とも言えない、出来立ての死体に顔を埋め込むような感触。童貞であった当職は、こんなおぞましい行いを性行為と受け取ることが出来なかった。
洋の荒い息遣いと、きつくも柔らかく、適度に刺激を与えてくる腸壁。当職にできることは、目と耳を塞いで、初恋の相手を思い出すことだけだった。
長いような短いような、地獄の時間が終わり、洋は満足げに立ち上がる。情事の直後だというのに、あの時は洋もまだ若さがあった。
茫然と涙を流す当職に、洋は一言『すまんかったな』とだけ言った。意味が分からなかった。
『厚史は死んでしまった。本当ならこれは、あいつがやることだった』
これ、とはまさか、先ほどのおぞましい行為だろうか。その問いに洋は、1+1は2である、というようにうなずく。
河野の家には、何代かに一度、男でありながら妊娠できるものが現れる。成功率は低い代わりに、何代重なっても近親相姦の害が現れることはない。
そして、その男と一族の男が契ることで産まれた子供は、とても有能になるというのだ。
『厚史は、厚子ではなくワシとワシの弟の子だ。お前が失敗した時のスペアとして作ったのだが、まさか厚志が先に死んでしまうとはな……』
当職の常識が、記憶が、理性が、アイデンティティが……
すべて、その夜に崩れ去った。