66 無名弁護士 2018/06/24(日) 20:49:42.47 ID:m/xhHWCI0
突然腰の動きを止めた当職を不思議に思ったのか、胡乱げな顔で洋がこちらを見る。今は正常位で、丁度当職の真上に蛍光灯があるため、度重なる出産と加齢で目が悪くなってきた洋には、当職の表情をうかがい知ることは難しいだろう。
落ち着くにつれ、当職のただならぬ雰囲気に気付いたのか、洋の腸内がきゅっと身じろいだ。
「洋、厚志の最期を覚えているナリか」
「……ああ、悪いものたちに暴行を受けて、世を儚んで……」
「嘘だ!!!」
当職の怒声に、洋は肩を竦める。こんな大声、脱糞以外で出したことなどない。
「少し前、厚史の遺書を見つけたナリ。そこには『こんなことに、兄さんを巻き込みたくない』と書いてあった。てっきり悪いものとの関りを指していると思っていたナリが、河野の力ならチーマー程度なんとでもできたナリ」
「……」
「だとすると考えられるのは、河野の力ではどうしようもない、いや、河野だからこそ逃れられないこと……この、呪われた行為ナリ」
「……」
「違うナリか、洋」
洋は何も答えず、静かに体を震わせる。だがその反応こそ、正解を表していた。
「許してくれ……貴洋……一族を繋げるために必要なことなんじゃ」
「一族……? そんなもののために、厚史は、当職は……」
はらわたが煮えくり返る。もし当職の自身が刃であれば、こいつを苦しみぬいて殺せたのに。
視界が真っ赤に染まる中、気がつけば、枕元に厚史が立っていた。いや、悪魔かもしれない。
茫然と見つめる当職の前で、悪魔の口がパクパクと動く。
『やれ』
やれ、とは何のことだろうか。一般的に、何か行動を起こすときや、下世話なもので言うと性行為などを指して『やる・ヤる』と言う。性行為であるなら、いまだ当職のものは洋の腸内にある。動いてこそいないものの、『やっている』と言って差し支えない。
シーツをつかむ指先に、布が触れる。当職のいつもつけている赤いネクタイだ。悪魔はそれを指さして、再び『やれ』と言った。