221 無名弁護士 2018/06/20(水) 00:40:34.30 ID:1kPUQiLZ0
中に戻ると不気味なほどきれいに片付いていた。鼻につく異臭もほとんどなくなっている。おそらくほかの施設よりも素早く手際よく丁寧に作業しているらしいがこれでは法律事務所なのか会計士事務所なのか介護施設なのかわからなくなってくる。
そんなことを考えていると今度はトイレの方から何やら物音と声が聞こえてくる。
そういえば唐澤貴洋と唐澤洋はどこへ行ったのだろうか?
トイレの方に近づくと耳を疑うような声が聞こえてきた。
「もぉダメェ!!我慢できないナリ!!漏れちゃうナリィィィィィ!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
中年と初老の男性の嬌声がトイレの中に響き渡る。
僕は渡邊恵美の方に顔を向けると死んだ魚のような目をしながら黙々と仕事に打ち込んでいた。
どうやら僕はとんでもない事務所に来てしまったようだ。
一仕事終えて二人がトイレから出てくるとドカっとソファーに座り込んで唐澤洋の膝の上に唐澤貴洋が身を預ける。
手持無沙汰になったのか唐澤貴洋が唐澤洋に授乳を要求した。
んちゅ、じゅる、じゅるるるるる。
気持ちの悪い音が静かな事務所に鳴り響く。さっきから行われている一連の事態に吐き気を催しつつそういえば昼ご飯を食べていないことに気が付いた。そこで僕は昼食を口実にしばらくこの異空間から離れようと思った。
「すみません、そろそろ昼食の時間なのでお昼食べに行ってきます」
ドアノブに手を掛けるがガチャガチャと音が鳴るだけで扉は一向に開く気配を見せない。
「すまない山岡君、ひろくんがこうなると仕事にはならないから事務所は閉めっぱなしにするんだ。何かの拍子にうっかり人が入ってくると困るからね」
僕はあとどのくらいこの地獄にいなければならないのだろうか?
「山岡君の言葉で思い出したけどお腹がすいてきたから山岡君の買ってきたお弁当を食べよう」
「洋、口移ししてほしい」
何を言っているんだ?くちうつし?僕の知ってるその単語は口から口へ食べ物などを与える行為だ。
「食事くらい一人で食べないか」
「嫌だ、洋に食べさせてほしい」
文字だけ見れば良いようにも見えるがこれを言っているのはもうすぐ40、70になる人間のセリフだ。
「仕方ない、少しだけだぞ」
脱糞、嬌声、授乳、そして口移し。
さまざまな地獄を味わった僕はついに耐えきれなくなり意識を失ってしまった。
気が付くと僕は見知らぬ部屋に移されていた。手足が拘束されていて手足の自由は失われている。
「あ、やっと気が付いたみたい」
目線を声の方にやると唐澤洋の腰にしがみついて唐澤貴洋が腰を振っていた。
「そうか、やっとか。これでわしの負担がすこしは減るな」
「厚史は当職が17歳の時に壊れた。川崎美奈は当職が35歳の時に壊れた。かなちゃんは当職が36歳の時に壊れた。山岡くんは何年持つかな?」
唐澤貴洋くん係とはこういうことだったのか。唐澤貴洋の面倒を見る係ではない。唐澤貴洋の相手をさせられる係だったのか。
しかし気が付くのが遅かった。コンビニに行った時点ならばまだ逃げられたのに。
こうして僕の弁護士としての将来は閉じていくのであった。