502 無名弁護士 2018/10/07(日) 08:50:34.46 ID:vpVr7BkC0
夜の東京タワーの明滅、窓を濡らした雨粒、彼の吸っている煙草の匂い、二人で映画を見て感じた胸の痛み、湿った汗が混ざり合う感じ、服を着たまま抱き合ったこと、あのとき飲んだコアントローの焼けつくような甘さ。
春の喜びも、夏の朝の空気を吸うことも、枯葉の侘しさに手を握り合うことも、寒い冬を寄り添って過ごすことも、絶対に叶えられない。
全て忘れ、過去に消えた思い出をいつか懐かしむだけなのだともう分かっている。
別れ際に「じゃあ、元気で」と言った彼が、笑っていたのか泣いていたのか、既に思い出せないのだから。
俺にはそれが、ひどく悲しかった。