517 無名弁護士 2018/12/13(木) 00:49:44.56 ID:Clusf8IP0
思えば弟の厚史を青春時代に失ったことが私という人生の起点だった
あの頃以前の自分には考えてみれば何もなかった
日々を家族の愛の庇護のもと甘やかされ無意味に過ごすばかりで、時間の大切さも愛の貴さも理解しようとはしなかった
だがそれらを初めて失った時に抱いたものは理解ではなく、ただ恐れる事しかできなかった
恐れは長い年月と挫折を経験するうちに怒りと絶望に変わり、傲慢と怠惰を生み出してしまっていたのだ
あの頃の私は自分の無力感を払しょくすることに精いっぱいだった
弟の無念を晴らす事の出来なかった全て
守れなかった両親
権力に屈し事実の報道をしなかった嘘吐きものたち
罪を問われ無いまま懺悔も無く平然と生き続ける悪いものたち
名前を間違えた墓石職人
そして弟の苦しみに気付きながらも終始何もしてやれなかった自分に心底腹が立った
だから法律をつかい罰というものを人間の心の中にきざみ恐怖心を植え付ければ 人間は人間にもっと協力的になるのではないかと思っていた
そんな浅はかな理念も自問自答する日々の果てにいつしか道を見失い、ただただ開示して恐怖を与える事しか頭になくなっていた
なので自分の行動の成果を金に見立ようとして必要以上に執着し、匿名で誹謗中傷をする臆病で卑怯者の彼らにかつての弱い自分達を当てはめ必要以上に嫌悪した
平気でひとを傷つける人間が許し難かった
自分の弱さをひとに見せるのが夜も眠れないほど怖くて仕方がなかったのだ
だが今にして思えばもっとも許し難かったのは愚かだった自分である
あの時、あの若者に弁護士としてではなく、ひととして道を示すことが出来たなら
過失や失態を認め、何度傷つけられても毅然とした態度で彼らを許し導く勇気と姿勢が私にあったのならば
もう少し早く優しい世界を実現できていたかもしれない
そうすれば彼らの人生は狂わなかったかもしれない
彼らは死なずに済んだのかもしれない
愚かにもあの頃の私には当職しかいなかったのだ
だが人生の黄昏を迎えた今ならはっきりと言える
何よりも貴いのは信じる事であると
信じる心は優しさを生み、赦しを与え、愛を育む
全ての宗教や国家が失っていたこの大切さをオウム真理教の理念に立ち返り、マハー・グル・アサハラと邂逅したことで私は当職を捨て遂に真理へと至ることが出来た
今は統一国家恒心国と恒心教のもとで全ての人々が核を捨てて優しい世界に生きている
ひとはそれを尊師の奇跡と呼ぶが、私が何をしたわけではない
ただ自らの過ちを認め、また過ちを赦し、信じる事の大切さを説いたにすぎない
この秩序と平和はひとえに皆が隣人を、自分自身を含む全てのひとを信じた結果なのだ
失敗も成功も人生の血となり肉となったかけがえのない宝
私を愛し、憎み、見守ってくれた全てのひとたちに感謝を
俺も君たちの二十年後を見守り続けている
辛い時も悲しい時もあなたの側にいるひとがいる事を忘れないでほしい
君も僕も同じ色の空を見ているのだから
カーラン第43044巻「回顧録」より抜粋