853 無名弁護士 2019/05/03(金) 17:57:14.52 ID:n6TCfk180
「100万回の殺害予告」唐澤貴洋弁護士に聞く 人権侵害のこと、2ちゃんねるのこと…
7年前、依頼を受けてネット掲示板「2ちゃんねる」（現5ちゃんねる）の書き込みの削除要請をした唐澤貴洋弁護士（41）は、殺害予告や盗撮などの嫌がらせを受け続けることになった。政治的、思想的な背景は全くない。
匿名の群衆から一方的に攻撃された唐澤さんは、昨年12月に初の著書「炎上弁護士〜なぜ僕が100万回の殺害予告を受けることになったのか」（日本実業出版社）も刊行した。
加害者や2ちゃんねる開設者の西村博之氏とも対面した。過酷な体験をつづった本に込めた思いを聞いた。
【大村健一／統合デジタル取材センター】
――いつ、どのようなきっかけで嫌がらせは始まったのですか。
2012年の3月に、2ちゃんねるに学校の成績をさらされるなど嫌がらせを受けていた少年からの依頼で、書き込みの削除要請をしたことでした。当時の2ちゃんねるは、投稿の削除を求める時は専用の掲示板に書き込む必要がありました。
公開された状態になるので、私が少年に代わって削除要請をした直後から「この弁護士は変だ」などと、投稿の矛先は私に向かってきました。
――それから、どのような被害を受けましたか。
仕事上、名誉毀損（きそん）の問題に巻き込まれる可能性のあるアイドルを事務所の公式ツイッターアカウントでフォローしていたのですが、「ドルオタ（アイドルオタク）」のレッテルを貼られました。
その後「サジェスト汚染」が始まりました。私の名前と「犯罪者」「詐欺師」といったネガティブな言葉をセットにして2ちゃんねるなどに大量に投稿することで、
私の名前を検索した際に（関連語句を予測表示する検索エンジンの「サジェスト機能」によって）「関連ワード」としてそれらの言葉も表示させるというものです。弁護士にとって最も大事な信用をおとしめる行為でした。
◇墓に落書き、郵便受けに生ごみ…
――それらに対してどのような対策をしましたか。
裁判所から加害者のIPアドレス（ネットに接続する機器に割り当てられたネット上の住所）の開示を命じる仮処分決定をもらい、
そのIPアドレスから人物を特定するよう2ちゃんねるの削除要請欄で求めたところ「こいつは反省していない」「刃向かってきた」などとさらに中傷されました。
私の自宅や実家の住所も次々に2ちゃんねるにさらされました。大学のOB名簿や、電話帳のデータを無断で掲載していたサイトから割り出されたのだと思います。
事務所周辺を不審な人物がうろつき、歩いている私の後ろ姿の動画が投稿されました。唐澤家の墓に落書きされ、事務所の郵便受けに生ごみを詰め込まれたこともあります。そのせいで事務所は数回、引っ越ししています。
◇エレベーターが怖い 一部の加害者は有罪に
――そして殺害予告や事務所の爆破予告にエスカレートするのですね。
一日中びくびくしていたので、アルコールを飲まなければ眠れなくなりました。エレベーターなど密室で誰かと一緒になるのも怖くてたまらなかったです。
最初の殺害予告は、嫌がらせが始まって4カ月ほどたったころで「唐澤貴洋を殺す」との2ちゃんねるへの投稿でした。それから「ブーム」になってしまい、「ナイフでめった刺しにする」といった投稿もされる事態が生じました。
もちろん、警察に通報しました。警察の人によれば、私への殺害予告の書き込みはネット上に約100万件以上あったといいます。
誰がカウントしたのかは分かりませんが、海外のネットメディアが出所と思われる「殺害予告をされた件数の世界ランキング」があり、1位は米国の歌手、ジャスティン・ビーバーさんで、2位が私、3位がジョージ・W・ブッシュ元大統領とのことです。
殺害予告や爆破予告、私になりすましてコンピューターウイルスをばらまくなどの行為で、すでに10人以上が逮捕や補導、書類送検されました。
しかし、最初に容疑者が逮捕されたのは嫌がらせが始まってから2年後の14年5月です。被害に遭ってもなかなか救われないと感じました。
◇「イジりの『ネタ』として消費された」
――その後も被害は続きましたね。17年夏、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんの妻 小林麻央さんが亡くなった時、唐澤さんになりすました人物がツイッターに「姪（めい）が亡くなりました」などとデマを投稿しました。
今も唐澤さんへの殺害予告を促すサイトは残ったままです。同じ仕事をしている弁護士は他にもいるのに、唐澤さんに被害が集中するのはなぜなのでしょう。
結局、ネットの中で「ネタ」として消費されているんですよ。別に私でなくてもいいんだと思います。「記号化」されているだけだと思うのです。度を越した「イジり（他人をもてあそぶこと）」の対象、コミュニケーションの材料にされているように感じます。
彼らは私に実害を与えることで、仲間内で「よくやった」「それはヤバイだろ」と盛り上がって充実感を覚える。私は彼らに危害を加えようとしたことなどないのに。私はそんな面白い人間じゃないですよ。普通の弁護士です。
◇加害少年からの手紙 「ひろゆき」氏との対面
――殺害予告をした加害者とも対面したそうですが、どう思いましたか。
怒りよりも脱力感を覚えました。何人か加害者の姿を法廷などで見たのですが、年齢も職業もばらばらでした。全員男性で、ニートや引きこもりなど、どこか生きづらさを感じている人が多かったように思います。
詳細は話せませんが、昨年末、かつて加害者の一人だった少年から手紙が届きました。丁寧な謝罪の言葉が手書きでつづられていましたよ。「会って謝罪したい」と誠意も示してくれた。だからこそ「こんな真面目な子が、なぜこんなことをしたのか」と思いました。
私は彼らの更生を心から願っていますし、謝罪に訪れてくれた際は、必ず握手しようと思っています。
――昨年10月、2ちゃんねるの創設者である西村博之氏と「Abema（アベマ） TV」の生放送番組で共演しました。どう思いましたか。
当初は平成のネット炎上を振り返るというテーマだったのですが、私はひろゆきさん（西村氏）に会ったら議論したいなと思っていたので、渡された台本の進行を無視して、議論をふっかけました。
特に、彼はさまざまな匿名の書き込みの被害への対応を放置してきたように思っていたので、それを伝えました。でも、私にも非があるという方向に議論を持っていこうとしている感じを受け、釈然としませんでした。
現在の制度では、加害者を特定するまでのハードルが高いのです。その点を巡って、さらに議論になりました。
◇「弁護士会照会」を巡ってひろゆき氏と激論に
――番組の中で「弁護士会照会」（各弁護士会が証拠収集などの目的で官庁や企業に情報提供を求める制度）の話題が出ました。弁護士会照会を使うことで開示の目的が達成されるかについて、
「裁判をしなければ（発信者の情報が）出ないというのはうそだ」と主張する西村さんと激しい議論になりました。
制度としてはありますが、弁護士会照会でプロバイダーから契約者（加害者）に関する情報開示を受けられることは実務的にありえない。裁判所に頼らざるを得ないのが現状です。総務省の勉強会に出席した際もその点を確認したのですが、異論は出ませんでした。
プロバイダーが持つログ（通信履歴）の保存期間を定めている法律はないので、より早く情報を開示させないと消えてしまいます。
◇人権を守るために法改正を目指す。
――こんな目に遭って弁護士を辞めようと思ったことはありませんか。
正直、辞めたいと思ったこともありました。ネット上で私にレッテルを貼る人たちは集団で思考停止しています。そういう人たちに反論しても無力感を覚えます。
でも、あきらめるわけにはいかないという思いの方が強かった。自分が被害を受けたことで法律の不備に気づいたことも多くありました。
――法律の不備とは。
まず、相手を訴えたくても、場合によっては加害者の特定ができない状況は、私が殺害予告を受けたころとあまり変わっていません。また、ツイッターなどは被害を通報できるフォームがありますが、
何の対応もされないことが多く、通報が読まれているのかどうかさえ分かりません。対応までの期間も明示されておらず、対応してもらえるかどうか分からない状況が存在します。
加害者の特定がより簡単にできる仕組み作りや、悪質な中傷を繰り返した人物にはより重い刑罰を科すなど、人権を守るために法律がやるべきことはまだまだ多いと考えます。
他の弁護士と協力して、発信者情報開示を定めたプロバイダー責任制限法や、名誉毀損罪などを定めた刑法の改正を総務省や国会議員に呼びかけています。ネットで人権を侵害された方々が、加害者を訴える際の負担を減らしたいと思っています。
◇「インスタ映え」という言葉の怖さ
――被害に遭わないために気をつけることはありますか。
現代社会ではなかなか難しいかもしれませんが、不用意に自分の居場所や行動などの情報をネットに出さないことが大事だと考えます。私は「インスタ映え」という言葉はとても怖いと思っています。
ソーシャル・ネットワーキング・サービス（SNS）にのめり込んで、自分の行動や好みを無意識にさらしてしまう。それが悪意ある人物に利用されないとも限らないのです。