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デアリングタクトを襲った?”体部?繋靱帯炎って何だ【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
2022年5月13日 06時00分

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」

 デアリングタクトが昨年4月の香港遠征以来、1年1カ月ぶりに戦線復帰する。戦線離脱の原因は右前の繋靱帯炎(けいじんたいえん)。2018年マイルCSを勝ったステルヴィオが今般、引退に追い込まれたのも、左前だが繋靱帯炎だった。どんな故障なのか。

 繋靱帯は前後の脚で構造が同じ。前で説明する。管骨の上の方の後面と種子骨をつないでいる。機能的には蹄の着地時に、球節の過剰な沈下を防いでいる。球節のクッションを裏側で支えているイメージだ。
 繋靱帯炎は発症部位で3種類。最も多いのは起始部繋靱帯炎で、管骨との接続部で起こる。管骨を引きはがして剥離骨折を伴うこともある。種子骨に近い方で起こるのが脚部繋靱帯炎。周囲の骨から影響を受けて起こる。「起始部」が繋靱帯の上、「脚部」が下だ。
 デアリングタクトの症例は繋靱帯の真ん中で起こる体部繋靱帯炎。「変性繋靱帯炎」とも言う。症例としては比較的少ない。上下の接続部とは関係なく、靱帯組織が傷つく。
 ところで靱帯は、組織学的には腱(けん)とよく似ている。違いは両端にある器官。靱帯は骨と骨を結ぶ。腱は筋肉と骨を結ぶ。真ん中の軟部組織はほぼ同じだ。繋靱帯は、ほかの動物の内側(人では掌側=しょうそく)骨間筋の変化したものだ。そのため、靱帯としては例外的に筋線維を含んでいる。これの中程で線維が切れるというのは、よく聞く別の故障を連想させる。屈腱炎だ。

 屈腱炎は大ざっぱに言って腱組織が切れるけが。復活を遂げる症例もあるが、基本的には競走復帰率も復帰後の成績も芳しくない。腱組織を再生させる時に、適度に負荷をかけ続けないと、再生した組織は正しい方向に伸びてくれない。だから完全な整復は難しい。繋靱帯炎の治療においても、この点は同じだ。
 体部繋靱帯炎は症例が少ないため、復帰率や復帰後の成績統計のデータはないが、本質的によく似ている屈腱炎と同じ傾向を示すだろう。デアリングタクトには心情的には完全復活を遂げてほしい。しかし、故障の性質からして、その道は骨折など、ほかの疾患と比べて、越えなければならないヤマが非常に大きい。