528 エッヂの名無し 2026/01/05(月) 13:09:33.842 ID:5CSbrUH8u
2.秋葉原ゴーレム騒動
半年で東京の風景は一変した。
日比谷線に揺られながら、湊は車内を見渡す。
スマホをいじるサラリーマンの隣で、フードを目深にかぶったエルフが文庫本を読んでいる。ドワーフの集団がスポーツ新聞を広げ、競馬欄を見ながら何やら賭け率の計算をしている(彼らは数字に強い)。
つり革には、小さな妖精(ピクシー)が止まって羽を休めていた。
「慣れたものですね、皆様」
クリスティーナが小声で呟く。
「最初はみんな腰を抜かしてたけどな。人間、半年あれば適応するよ。……特に日本人は」
秋葉原駅を降りると、そこはカオスだった。
電気街のネオンと、異世界の魔導照明が混在し、コスプレイヤーだか本物の魔法使いだか区別のつかない人々が行き交う。
現場のフィギュアショップ前には、すでに人だかりができていた。警視庁の「異能対策班」が規制線を張っている。
「どいてくれ! 交流庁だ!」
湊が警察手帳に似たIDを示すと、警官が道を空けた。
店の中では、信じられない光景が広がっていた。
ショーケースから飛び出した、高さ三十センチほどの美少女フィギュアたちが、集団で行進しているのだ。その数、およそ五十体。彼女たちは店員を包囲し、プラスチックの剣や杖を突きつけている。
その中心に、一人の若い男が座り込んで震えていた。ローブをまとい、杖を握りしめている。アルカディアから来た冒険者だろう。
「な、何なんだこれは……」
湊が呆然としていると、クリスティーナが鋭い目つきで男に歩み寄った。
「貴様! 市街地での『付与魔術(エンチャント)』は三級禁止事項だと教習所で習わなかったか!?」
男はビクリと肩を震わせた。
「ち、違うんです! 僕はただ、この『プラスチックの偶像』があまりに精巧で美しいから、魂があればもっと素晴らしいと思って……ほんの少し、生命付与(アニメイト)を……」
「馬鹿者! アースの物質は魔力伝導率が低いんだ! 制御できない魔力を流せば暴走するのは当たり前だ!」
クリスティーナの一喝が店内に響く。フィギュアたちが一斉に彼女の方を向いた。敵意を感じ取ったのか、プラスチックの軍団が襲いかかろうとする。
「中川補佐、『対魔障害保険』の申請準備を。少し壊します」
「最小限にしてくれよ! あそこの棚のレア物は経費じゃ落ちないぞ!」
クリスティーナは鞘から剣を抜かず、柄頭に手を置いたまま呪文を詠唱した。
「――鎮まれ。汝ら、還るべき場所へ。『魔力解除(ディスペル・バースト)』!」
目に見えない衝撃波が店内を駆け抜ける。
窓ガラスがビリビリと震え、突進していたフィギュアたちが、糸が切れたようにパタリとその場に倒れ込んだ。
静寂が戻る。
店長がおそるおそるカウンターから顔を出した。
「……た、助かった……のか?」