210 - 来世はカメムシ 2023/08/27(日) 00:03:23 ID:rLzVHZXN0
タイムカプセルの中に野球ボールを隠したのを、未だにずっと後悔している。あの頃のお気に入りだった、くねくね曲がる鉛筆でも入れておけばよかったのに、和香が持ち出したのはお兄ちゃんの大事な野球ボールだった。
「おとなになるまで大切にしていたいものを持ってきてね」
小学校の先生にそう言われて、和香が真っ先に思い浮かべたのはお兄ちゃんの姿だった。和香のお兄ちゃんは野球少年団に入って以来、野球の話ばかりするようになった。
(おとなになるまで大切にしていたいもの、おとなになる前になくしてしまうかもしれない)
タイムカプセルを埋める前日、和香はお兄ちゃんの野球ボールを盗んだ。野球にお兄ちゃんを取られてしまうんじゃないかと不安で胸が押しつぶされそうだった。
せめてわたしがおとなになるまで、お兄ちゃんがそばにいてくれますように。そう祈りながら、タイムカプセルに土をかぶせた。