B級のハチナイ (1001)

←← 掲示板一覧に戻る ← スレッド一覧に戻る

658 - 来世はカメムシ 2024/02/26(月) 01:22:40.91 ID:czPyts7t0

大和田短編SS書いた😡


 少し駆け足で駅の階段を駆け上り、繁華街に出る。周りの邪魔にならないよう位置を少し調整し、待ち合わせ場所のカレー屋を探そうと周囲を見回す。目立つ色、そして大きな文字が書かれた看板だからすぐに見つかるはずだ。時間にも余裕はあるし、一度ぐらい道を間違えても大丈夫だろう。最悪地図アプリで確認すればいい。
「ええっと、オレンジで……」
「遅い!」
 首を回したら、頬を膨らませた小柄な少女が視界に入った。遅刻した訳でもないのに、開口一番これである。
「いやいや、沙智が早いんだって」
「いいや、ちゃんとちょっと早く来いって言ったはずだぞ、今日は月に一度のトッピング二倍デーだからって」
「あーそう言えば…ってそれは聞いてないよ!」
「ありゃー? 教えた筈だったんだけどなー?」
 沙智が首を傾げる。NINEのメッセージや会話記憶を辿っているのだろう。難航しているのだろうか、目を何度も泳がせていた。
「とにかくごめん、今日皆自主練上がるの遅くってさ」
「ふーん……大事なのは部員の自主練かー……あたしが一番じゃないんだー」
 不機嫌なジト目で睨んでくる。彼氏としては失敗発言だったかもしれない。いや、確実に失敗発言だ。どうにかして機嫌を直さないと。
「許して、沙智。この埋め合わせはなんでもしますから」
 僕の再度の謝罪に、沙智はいたずらそうな笑顔を浮かべた。
「ん? 今なんでもするって言ったな?」
「あ……いや……実現可能範囲内で……はいい?」
 沙智が手が僕の腰周りに伸びる。まさかこの人混みでそんな事を、だが沙智の表情は本気そうだ。
「あ、あの…こんな所では流石にまずいって」
「はは、なーに変な期待してるんだ」
 彼女の手は軌道を変え、僕の手に向かった。そのまま僕の手をがっしりと握り、引きずるように店に向けて歩き出す。
「さ、沙智…?」
「じゃあカレーのトッピングのコロッケ、全部あたしのな。それでチャラ」
「え…いいけど、本当にそんなのでいいの?」
 僕のあっけらかんとした反応に、沙智は笑いながら振り向く。眩しい笑顔だった。
「別に怒ってなんてないからな。お前が監督頑張ってるのは知ってるし! でもコロッケくれるってならありがたく貰うぞー!」
 朗笑しながら、沙智は歩くペースを速める。まんまとハメられた、そうわかっていても僕もつられて笑ってしまう。まったく、調子に乗った沙智にはやっぱり敵わないな。


「あー、でもさ……もしそっち方向でなんでもしていいって言うならあたしはそれでも……」
「い、いや、そんな事……」