2 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/08/04(火) 01:09:08 ID:MgL4Xmho
「実は迷っちゃって困ってるんだ」
僕はその少年に今の状況を素直に話した。
「へえ、そうなんだ。じゃあ僕が道案内してあげようか」
僕はこの親切に甘えることにした。
少年は色白で僕より少し年下のように見えた。
「ありがとう。家に帰りたいんだ」
「日が暮れるまで時間があるからそれまで遊ぼうよ」
僕は少年のこの言葉に賛同して遊ぶことにした。一人より二人のほうが楽しいはずだ。
「うん、じゃあ遊ぼう。ところで、君はなんていうの?僕は貴洋」
僕が自己紹介をすると、少年も名前を教えてくれた。
「僕はアツシっていうんだ」
「アツシ?どういう字?ま、字なんてどうでもいっか」
互いの自己紹介がすむと、僕たちは遊んだ。
アツシは僕に林の中のいろいろなものを見せてくれた。
石をどけるとうごめいているのがわかる虫をみて悲鳴をあげてみたり、つたを使ってターザンごっこをしたりした。
疲れると林の中を流れる小川まで行き、そこの水をすすった。東京の水よりもずっと美味しかった。
二人して川辺の岩に腰掛けて足だけ川の冷たい水に浸しているとき、僕はアツシに聞いてみた。
「アツシはこんな林の中で一人でなにしてたの?」
「それはこっちのセリフだよ」
僕たちは二人して笑った。
「そうだ、林の外に行こうよ。僕の爺ちゃん婆ちゃんの家につれてってあげる」
僕がそういうとアツシは首を振った。
「ごめん。それはできないんだ」
「できないってどういうこと?」
「うーん。とりあえずさ、今日は林の中で遊びたい気分なんだ」
林の中で遊んでも十分に楽しいから、僕はそれに従うことにした。
空が赤くなり、ひぐらしの声が聞こえるようになり、僕は帰ることにした。
「そろそろ帰りたいんだけど」
と僕が言うと、アツシは外の道まで連れて行ってくれた。
「アツシは家に帰らないの?」
林の中から出てこないアツシに向かって僕は言った。それに対してアツシは「うん」と一言だけ答えた。
互いに手を振り合い、僕は祖父母の家に着いた。
(続く)