夏の僕と弟 (7)

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3 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/08/04(火) 01:29:41 ID:MgL4Xmho

「今日は何してたんだい」
祖父がにこにこしながら聞いてきた。孫の様子を知るのが楽しみでしょうがないという感じだ。
「林の中で遊んでたんだ」
「虫をとってたのかい?」
「ううん。男の子と遊んだんだ」
祖父はその言葉を聞いて不思議そうな顔をした。
「男の子?」
「うん。僕より少し年下かな」
「はて、この辺りにはそんな男の子はおらんけどなあ」
祖父は首をかしげる。
「でも確かに遊んだよ」
「貴洋がいうんだからそうなんだろねえ。そうかそうか」
僕は祖父母と両親に、今日のことを話した。
「それで、その子はアツシ君って言ってね」
と僕が言った時だった。僕の両親の顔が引きつった。僕はとっさになにか言ってはいけないことを言ってしまったのだと思い口をつぐんだ。
気まずい沈黙が流れる。
「偶然だよ」
父は母に声をふるわせながら言った。
「何が偶然なの?」
僕は父に聞いた。父はしばらく黙ったままだったが、教えてくれた。
僕には弟がいたらしい。しかし、生まれる直線になりお腹の中で死んでしまったという。そして、その名前がアツシというらしい。
説明し終えると父は黙った。母はうつむいている。僕は、沈黙を破り言った。
「じゃあ、もしかしたら僕は弟と遊んだのかもしれないんだね」

次の日、朝ごはんを食べると僕は昨日アツシと出会った場所に行った。
昨日の帰り道、どう行けばたどり着けるかを覚えていたために簡単に林までたどり着いた。
林の中にはいり、迷わないように、昨日アツシと出会った大きな木のところまで進む。
でも、その木はなかった。確かに、昨日木があった場所には、大きな切り株が残されているだけであった。
もしかしたら場所を間違えたのかもしれない。そう思って林の中を確認するが、やはりその場所があの木の場所な違いなかった。
僕はアツシの名前を叫ぶ。僕の声は木々の間に吸い込まれ消えていく。
僕が昨日遊んだのは誰だったのだろう。もしかしたら、迷子になった僕のところに本当に弟の霊が現れて遊んでくれたのかもしれない。
夏に幽霊なんて怖い話の定番だけど僕はちっとも怖くなかった。
「お兄ちゃん」
その時、僕はアツシの声が聞こえた気がした。だけど、あたりを見回しても誰もいない。
なんとなく視線を落とした切り株の根本の地面の中から、その声が聞こえた気がした。
僕は落ちていた枝と石とを拾い、その場所を掘った。夢中になって掘り続けた。
何か石ではない固いもの感触がしたので、引き上げる。
それは骨だった。
道端で猫の死体が腐って骨だけになっているのを見たことがある。ちょうどそれみたいだった。
でも、僕が今見つけたその骨は、猫の骨なんかではなく、どうやら人間の赤ちゃんの骨のようだった。
僕はびっくりしてその骨を手から落とす。
その時だった。僕の背後で、枝を踏む音がした。
振り返った僕が最後に見た景色は、父が斧を僕に向かって振り下ろす姿であった。

(終了)