乳幻児 (18)

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4 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/08/09(日) 01:08:33 ID:H1QtDJVY

そんな時だ。あの悪魔がやってきたのは。
見舞いと称してやってきた悪魔は、切れ長の目の縁を期待に歪め、耳元で囁いた。
『やり直すチャンスをやるモリよ』
そう言って奴は垂れ下がった点滴バッグを後ろ手に隠していた別の点滴バッグに取り替えた。
そうして、世間話も程々に、奴はいなくなった。薄ら笑いを浮かべながら。
その日から、男の体は変わっていった。悪魔に投与された薬物に、作り変えられているのだ。男は、かつて自分の足が存在していた位置を埋めるように、肥大化していく局部が日に日に伸びていく様から目を背ける。
それは、還暦を超えて失いつつあった機能を取り戻しているかの様に脈打ち硬く勃起し、時折そのヒクつく鈴口から粘質な液体を噴き出す。
つまり、悪魔はこう言っていたのだ。
『アレなんか忘れて、まともな子どもを作りなおせばいいモリ』
男は顔を背け続ける。悪魔への嫌悪感のためではない。次男を失い、残った長男を見た時から抱き続けていた本心を、決めつけられているようで。
お前は、体裁ばかり気にして、息子をないがしろにしていたと非難されているようで。
夜の病院から逃げ出した男は己の醜さに蓋をする様に目を背けたのだ。
そうして息子を探そうともせず、新たな子どもを作ることもせず、身も心と放浪者として過ごす日々。
更に時は無駄に過ぎ、更に局部は肥大化し、そして今日。
こうして駅のホームで、衆目にさらされた。多くの人々の叫び声が、お前は醜いと罵っているかの様に感じる。
しかし男は、かすかな笑みを浮かべていた。心なしか張り詰めていた糸が緩んだかの様に、疲れきったかすれた笑みを浮かべていた。