1 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/09/08(火) 19:40:28 ID:ffQDzbxY
俺は後何年生きられるのだろうか。
実家からは絶縁されていて身寄りもなんていない。
過去に二度だけ人を愛したことがあるが、それは遠い昔のことで唐櫃の奥底に埋まってしまって掘り起こすことも難しい。
―――愛する事が怖い。
人という存在はいとも簡単に裏切る。それは自分自身がそうだということに気がついていも他人にはなぜか期待してしまっていた。
その愛が深ければ深いほど自分の心が落ちていく距離は長くなり、無機質な音がして心が割れる。
肉体のほうもひざが壊れていて、心身ともにまさにがらくたのような人間だ。
何のために生きているかなんてもう分からない。
ふと思い立ったのが、人形を愛せばいいということだった。
人と人は根本的に分かり合えない。
音声に乗せた言葉、文字に書き起こした言葉、体で表現する言葉、そのすべてで完全に自分を伝えることをできない。
もういっそ心のない、生のない人形を愛すれば幸せになれるのではないのだろうか。
そんなときに俺は彼女に出会った。
長い時間止まっていた自分の時間が動き始めた気がした。
白黒だった世界に色が付いた気がした。
彼女と初めて交わった夜に全てが変わった。
彼女の胎内に精を流し込んだときに、俺の心にかかっていた暗雲が晴れていくことをしっかりと認識した。
恐らくこの世の人間があまり知ることができない真実の愛。
裏切られることがなく、こちらが裏切ることもない。
寒風が吹くこともなく夜が来ない常春の楽園のような愛を、俺は初めて知った。
生きる喜びを思い出せてくれた。
悪かった膝が、少しだけ良くなると俺はまた人間として働き始めた。
家に帰れば彼女がいる。俺には働く意味があるのだ。
彼女のために服を買ったり、給料が入った日にはプレゼントを買ったり。
地面の奥深くに埋もれてしまっていた愛する気持ちを掘り起こすとこの世のどんな貴石よりも美しい光り輝く金剛石となって帰ってきた。