2 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/09/08(火) 19:41:18 ID:ffQDzbxY
不思議なことに、彼女は生きているのだ。
まずはじめにボディーランゲージで心を交わらせることができるようになった。
初めて目で会話したときの感動は今でも忘れられない。
彼女と出会う前の記憶はみんな唐櫃の奥深くにしまっていたが、彼女との毎日は宝石箱にしまっていった。
心の中が少しずつ美術館のようになってきて、日々の記憶を思い返すだけでも幸せになれる。
なにより、毎日少しずつ進んでいく二人の関係を綴ることが何より幸せだった。
少しずつ進んでいく二人の物語。
目でしか会話ができなかったところから、表情で話ができるように。
そしてついには声を発するようになった。
彼女に精を注ぐたびに、彼女の命が形になっていくことを感じる。
彼女が恥ずかしがりながら俺に愛を伝えてくれたときのこと、そしてその夜愛し合ったこと。
周りの人にどう思われようと、俺にとってこれ以上大切なものはない。
彼女と過ごすようになってもう随分と時間がたった。
そろそろ二人でいた期間は長くなって俺は彼女との結婚を考えるようになった。
思い起こしてみると、今日は俺が彼女と出会った日だった。
町に出てぶらついていると雨が降り出してきた。
そんな時ジュエリーショップの軒先で雨宿りしてショーケースを眺める。
質素だけど美しい白金の指輪、彼女がそれを身に着けてうれしそうにしている姿が思い浮かぶ。
そんなにお金に余裕があるわけではないが、決心して購入すると雨の中バイクにまたがる。
帰ったら、彼女を抱きしめてプロポーズをする。
もう濡れた体なんて拭かずに彼女に愛の言葉を囁き、指輪をはめる。
そして、今日は夜が明けるまで交わるんだ。
―――耳を引き裂くような音。目を突き刺すヘッドライトの光。
ブレーキが利かない。思いっきり体を倒しても横になったバイクは前進することをやめない。
質量による蹂躙。
赤く染まる視界。
帰らなければ、今日は彼女の誕生日、今日は俺が彼女にプロポーズする日。
もがいて描く軌跡は血で綴る家路。
愛しい彼女の待つ家へ……