厚志と貴洋 (17)

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1 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/09/09(水) 01:55:39 ID:WlTv6wKI

川の辺に花束を手向け、手を合わせる。
弟の無念に思いを馳せ、安らかにと祈る。
夕日が揺れる多摩川は、あの日の様に穏やかだった。
弟はここで悪い者たちに集団暴行を受け、独りで悩み、苦しみ、自ら命を絶った。
おとなしく、丁寧で、礼儀正しく、自分が傷付いてもそれを打ち明けず、一人で抱え込んでしまう、そんな弟だった。
らしい。
「そろそろ行くぞ貴洋。」
「●はい。」
らしい、というのも当職は弟と過ごした日々をほとんど覚えていない。父に尋ねても「優しい子だった」とだけ話し、それ以上訊くと決まって、不機嫌そうに白いもみあげを弄り、はぐらかしてしまう。
きっと、弟をむざむざと死なせてしまった事に責任を感じているのだろう。当職が覚えているのは、弟の顔と、この夕焼け空の多摩川だけだ。
駅を出るとすっかり夜だった。父と別れた当職は、弟の分まで精一杯生き、悪い者を裁き、父の悔恨を晴らす事を改めて決心し、タクシーで帰路についた。河川敷を歩いた疲れもあってか、その日はロリドルを観るのも忘れ、ソファで眠ってしまった。