6 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/09/09(水) 01:58:40 ID:WlTv6wKI
スキンヘッドの男が、サンドバックに鋭敏にジャブを繰り出した。およそ法科大学院生という肩書きが思いつかない様な早業である。
不意にパンチの音を掻き消す音量で、ジム内に拍手が鳴り響いた。
「いやはや実にいいパンチナリ、しかし、これは、なに、実にいい準備運動ですなあ。」
入り口に立っていたのはスーツ姿の男性だった、しかし、ネクタイは曲がり、靴は便所サンダル、ひどくマヌケな声質と、まともな人間には見えなかった。
「はあ?なんなんスか、いきなり来といて失礼な事…怪我するから帰った方が良いスよ。」
「いやはやこれは失礼、実は当職はいくつか、失礼ながらお願い事がありまして。」
叩きのめして放り出そうかと思ったが、面倒事も厄介なので、それでコイツが出て行ってくれるならと用件を聞く事にした。
「良いスよ、聞いたらとっとと出てって下さいね。」
「当職は当職の弟を探しているナリ、知りませんか。」
「ええ、ウチでは見てませんよ。どっかではぐれたんスか?」
「多摩川で。」
驚愕し振り返るとスーツの男は同じ姿勢のまま、表情一つ変えずこちらに近付いていた。
「小番くん、お答えください。当職の弟を知らないナリか?」
思い出した、コイツはあの時のアイツだ、何故ここにいる、何も出来なくなるまで壊したハズだ。
「し、しらな」
狼狽えるあまり一瞬眼を逸らした内にスーツの男は眼の前まで近付いていた。小番は思わず悲鳴を上げ仰け反った。
「た、助け」
「それなら直接訊くナリ。」
言うが早いか、逃げようと駆け出した小番の頭を鷲掴むと、親指を眼孔から上部にねじ込み掻き回した。小番は絶叫し死に物狂いでのたうちまわったが、すぐに収束し、脳を弄られるたび嬌声を漏らすだけとなった。
スーツの男が脳を捏ねくりながら尋ねる。
「当職の弟はどこナリ。」
「ゴボゴボ、ししら、ない。」
「参ったなあ、本当に知らないナリか。それじゃ、和田くんの場所を教えるナリ。」
「港区と虎ノ門の、べ弁護士事務所。」
「いい子ナリ、今から君の家に行って、君の奥さんも、君と同んなじにしてあげるナリ、そしたら一緒に和田くんのところへ行って、多摩川でした事と同じ事を和田くんにするナリ、そしたらきっと、当職の弟のこと、思い出してくれるナリ。」
そんな事を言いながら、スーツの男は小番と手を繋ぎジムを出た。