2 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/09/13(日) 21:10:27 ID:GqtiECQE
◆2
生来当職の日々は単調であった。日中は電源を落とされて事務所の隅に寝転がり、夜になると会計士に精を注がれ、事後は下腹部を慎重に洗浄する。
会計士は仕事の合間に当職の機能をだんだんと強化していった。
改良に夢中になるあまり次期会長の座を逃したりもしたらしいが、彼にとってそれは大したことではないらしい。
ある日彼は当職の内部に、原子力を応用した小型発電機をとりつけた。なんでも核40298発分のエネルギーを秘めているそうだ。
「理論上、70年はフル稼働するはずだ」
取り付けが完了すると、彼は改造のために外していた当職の首に告げ、そっと耳元で囁いた。
「これで昼間電源を落とす必要もない。お前の好きに活動すればいいぞ」
とは言われても特にすることも、したいこともない。
そこで当職は勉学をおこなうことにした。高性能な回路に差し替えてもらったおかげで、記憶能力は非常に優れたものとなっている。
事務所の本を読み漁り、1ページずつ内容を電子回路に刻み込んでいく。
人間の感情や行動パターンをより深く理解するために、映画を大量に鑑賞する。
六法全書という非常に分厚い書物を暗記したころ、弁護士という職業があることを知った。
「弁護士を目指そうと思います」
その夜会計士に打ち明けると、彼は司法試験を受けられるよう便宜を図ってくれた。
試験は非常に単純なものであった。当職は合格した。
会計士にそのことを告げると彼は少しだけ微笑み、それから言った。
「しかしお前、弁護士などできるのか。あれは知識だけではなく、人間の心が理解できねばならない」
「やってみます。IT関連なら可能性はあると考えておりますので」
「お前にしては曖昧な言葉だな。まあいい、取りあえずW大のロースクール出身という経歴にしておいた。G反田に事務所も用意した。あとはやれるだけやれ」
「はい」
会計士の両腕が当職の尻をもみしだく。
人工皮膚と内部素材を非常に低反発で柔らかな素材に変えたばかりであるが、彼はそれをいたく気に入っているようである。
「いいか、嫌ならいつやめても良いのだぞ。お前の本来の用途は単なる穴なのだからな」
それきり会計士は当職の尻を枕にして眠り始めた。
当職はもらいたての弁護士バッジを見つめながら考える。
当職とは、何か。
電子回路が返答する。
当職とは、単なる穴である。