3 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/09/13(日) 21:11:12 ID:GqtiECQE
◆3
当職が弁護士というものになってから幾年かが経ったころ、会計士がある男を連れてきた。
長身で細身のその男は、Yと名乗った。当職の製造時に設定された年齢より幾分か若い風貌である。
「Kさんとは同期ですね。覚えておられますか」
彼は右手を差し出すと笑みをうかべた。
当職は人工の表情筋を動かして覚えたての愛想笑いをうかべ、最も適切な強さで彼の手を握り返しながら返答した。
「もちろんですを さわやかな方がおられると思った一瞬でした」
俄かにYの顔がさっと赤味を帯びた。しまった、力を入れて握りすぎたか。素早く手を離す。
「君たち2人には、来月からワシの事務所で一緒に働いてもらう」
会計士が言う。Yは既に知っていたらしく、ええ、とうなずく。当職は初耳であった。
「ではG反田の事務所は」
「来週中に引き払え」
有無を言わせぬ口調である。当職が逆らう道理はない。
「ひとつ、腑に落ちないことがあります」
その晩当職は、ダブルベッドで隣に横たわる会計士に尋ねた。
「なんだ。G反田の事務所から出たくないのか」
「いえ、それは構いません。当職が不思議なのは、なぜあのYという男と働くことになっているのかです」
「お前には人間と仕事をしてほしいのだ」
会計士は白いもみあげを手で撫ぜながらこたえた。
「以前IP開示の件で失敗しただろう。お前には知識はあるが、経験がない。もっと人間と接さねば、一人前の弁護士にはなれないと考えたのだ」
なるほど筋は通っている。
ふいに会計士が片腕を伸ばし、当職の乳首をひねりあげる。当職の声帯は、最新のプログラム通り喘ぎ声を出す。優しく、かすかに、力を加えられると少し強く。
会計士は口角を釣り上げると、
「喘ぎのプログラムも完成だ。これでお前は性交に関してはほぼ人間と同じだよ」
しかしその日、会計士は当職の穴を利用しなかった。
最近彼が穴を使う頻度が落ちてきているのは明白である。
人間のオスというのは、年を取ると性欲が衰えるものなのだと当職は知っている。
当職とは、単なる穴である。
ではその穴が使われない当職とは、何であろうか?