2 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/10/18(日) 00:01:17 ID:neFvfsWA
「なあ、ヒカリ、食ってくれよ。2人で祝おうよ。俺が生まれたこと、間違ってないだろう? 俺の人生、間違ってないだろう?」
「……」
あたしはヒカリの肩を揺さぶる。
口の周りにクリームを大量につけた、ガクガクと揺れる小さなヒカリ。
小さな人形。安物のダッチワイフ。
「なあ、俺を肯定してくれ! 俺のこと好きだって言ってくれ! 俺の存在を認めてくれよ、ヒカリ! なあ、ヒカリ!」
「……」
「どうして何も言わないんだよ!? 俺はもうお前しかいないんだよ! お前もそういう態度取るのかよ!?」
でもね、ヒカリ、何も言ってくれないの。
そのうつろな目で、あたしのことじーっと見てるくせにね、何も言わないの。
「なんだよ、その目は」
「……」
「なんなんだよ、お前! こんなに愛してやったのに、そんな目で俺を見るなよ!」
「……」
ね、あたし、悲しくなっちゃった。
だからあたしはヒカリを踏みつけたの。自由の利く左足で何度も踏みつけたの。
両手でその細い首を絞めたの。
変だよね、ヒカリが呼吸するわけもないのに、あたしってばヒカリが苦しそうに見えたの。
ついでに包丁を持ってきて、その小さな人形をめった刺しにしたの。
変だよね、ヒカリが痛みなんて感じるわけもないのに、あたしってばヒカリが痛そうな顔をしてるように見えたの。
あたしはヒカリがかわいそうになってちょっとやめて、目をぱちぱち動かさせてみた。
「俺を愛してるか、ヒカリ?」
ぱちぱち。
「俺を祝ってくれるか、ヒカリ?」
ぱちぱち。
「俺の存在を肯定してくれるか、ヒカリ?」
ぱちぱち。
ね、ヒカリってばシャイなんだ。
どうやってもあたしが動かさないとまぶたのひとつも動かさない。
そんなときふと思ったの。
こいつもういらねえなぁ、って。
だからあたしは使えそうなもの、ぜーんぶ使って、ヒカリをばらばらにしちゃうの。
トンカチも、バイク乗ってた頃の工具も、もう使い道のないMMD用のパソコンも、全部使って殴ってえぐって手足をもいで、それでねそれでね。
ヒカリってば、バラバラになっちゃった。
ローソクの明かりがね、砕かれた人形をゆらゆらと照らし出してるの。
「……お前、が、悪いんだ」
あたしは荒くなった呼吸を整えながら言う。
「俺は、なにも、悪くない。俺は、なにも、間違っちゃ、いない。悪いのは他のやつらだ。そうだろう? 俺は被害者だ。俺は戦ったんだ。
俺は自分の正義を貫いたんだ。俺はMMD杯を正しい方向へ動かしたかっただけなんだ!」
「……」
あたしはヒカリの生首を掴んで、何度もキスしながら言う。
「今までもそうだ。漫画家をあきらめたのも、バイクオフも、花王デモも、MMDでも、あの新太陽板だって、俺は被害者だろう!? なんでみんな俺を責めるんだ!?
責められて逃げて、それの何が悪いんだ!? なあ、それの何がいけなかったんだ?!
俺は間違ってない! 俺の人生は間違ってなんかない! ヒカリ、そうだろう!? ヒカリ、教えてくれ! 俺の存在を認めてくれよ、ヒカリ!!」
人形の生首がこたえるわけもない。
まぶたを動かそうと思ったが、この状態ではもうそれもできない。
ガラクタになった人形の首を投げ捨てて、あたしはコンビニのショコラを口いっぱいに頬張る。
妙にしょっぱいな、と思ったが、それは知らぬ間に頬を伝っていた涙のせいだった。