不可視光/しびれ、ときどき、めまい (49)

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14 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/11/09(月) 23:41:55 ID:kPaKyqPA

◆7

 この一週間、できれば早めに帰らせてほしいと伝えると、Hは軽く了承してくれた。
 はっきり言って最近のYくんは仕事しすぎじゃ、おかげでワシの仕事まで減ったわい、しっかり休むんじゃぞ。
 躾のよい犬にそうするかのように、軽く肩を叩かれる。気を紛らわすために仕事に没頭していたことが、思わぬ形で役立ったようだ。
 デスクで頬杖をついてマインスイーパに興じていたKは、不思議そうにこちらを見ていた。

「Yくん、週末どうナリ?」
 Hのいない間をはかって、いつものようにKが誘いをかけてくる。
「駄目です。大変申し訳ないのですが」
 Kの誘いを断ると、彼はなにか深いものを覗くような瞳で僕を見つめた。
「……なんかあった?」
「……どうしてそう思われるんです?」
 いつかと似たような展開の会話。
「なんか」、Kはそこで言葉を切る。「なんか……」
 会話はそこでとぎれてしまう。オランジーナの炭酸が抜けてゆくように、切れた言葉たちはぷかぷかと宙を舞い、やがて空中へと溶け込んでゆく。
 僕は書類を整理しながらその言葉が消えるさまを見つめている。