5 5/10 (sage) 2016/02/14(日) 21:55:00 ID:oD9hA9Ko
僕とKは同期の弁護士だ。
僕はしばらく前にちょっとしたことで所属事務所を辞めており、そこを彼の父親に拾われた。
よく言えば、ヘッド・ハンティングとでも言うのかもしれない。断る理由は考えてみれば何もないので、僕はその事務所へ入った。
そうして、Kと本格的に関わりをもつようになり、それはやがて肉体的な関係をもつ部分まですすんだ。
Kはどこかぼんやりとした感じの男だった。
夢想家気質と言ってもよいのかもしれない。あるいはある種、詩人的な性質。
肥大化した己の理想に振り回され、ありもしない「優しい世界」を探していそうな男。
彼はいつもどこか遠くのほうを眺めていて、たまに声をかけても反応しないことがあった。
まるで彼には2つの世界があるように思えた。こちらの現実世界と、どこか抽象的な、空想の世界とでも呼ぶべきものとのあいだ。
波間をただようクラゲのように、彼はふらふらとその2つの世界を渡り歩き、ときにはこちら側にいるように思えることもあれば、ときには向こう側にいるようにも思えた。
……もちろん、弁護士という実務的な職業においてそれはあまりよい性質とは言えなかった。
僕はインターネットにあまり詳しくないので後になってから知ったのだが、彼はネットで局所的に有名であるらしかった。
それも悪い意味で、だ。
頭の痛くなっていきそうな情報を探っていくうちに、僕は彼がかつてtwitterに投稿したという詩を見つけた。
……いや、それは「詩」と呼ぶのもはばかれるようなものだった。
解釈の自由が低く、抽象性を固有名詞で台無しにしている。酒に酔って書いたとしか思えない。
稚拙なその文章をかつての事務所の「公式アカウント」で投稿していたという事実は僕を少しあきれさせた。
中学生じゃあるまいし。
しかし僕はそれを彼に話すつもりもなかったし、何より新しくやらねばならない業務は目の前に山積みだった。
僕が彼の《儀式》をはじめて目撃したのは、それから少ししてからだった。