ナリアンタウンの新名物 (18)

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1 初投稿です 2016/02/26(金) 02:22:30 ID:la6FpAUA

酸っぱい香りがする。異国風の軒先に、直輸入された漬物が並ぶ。
威勢のいいネオンや、セールの文字が書かれた幟が街を彩る。

その一角に、大きな行列が横たわっていた。行列をたどっていくと、一軒の店にたどり着く。
いつからか「ナリアンタウン」と呼ばれるようになったこの街は、この店を中心に栄えているようだ。

しかし、この街も数年前までは閑古鳥の鳴くシャッター街だったという。


それは、数年前のこと。
かの国の首長の振る舞いが原因だっただろうか。政局の動転が、この街を潰した。
迫害を受けたコリアホーモたちは、次々にこの街を去った。
「Kの国」は嫌いだと、女子供までがそう口にした。
間もなくこの街は、低俗な看板が並ぶ、淫靡な娼婦たちの牙城となる。
誰もがそう確信した。

ところが、この流れを止める者がいたのだ。

彼の名はT。元は別の街で士業を営んでいたが、諸般の事情でこの街へやってきた。
彼は、本業のための事務所を設立する一方で、同時に飲食店の経営を始めた。
カウンター席のみの、小さな居酒屋。店主との距離が近く、アットホームな雰囲気がある。
この店の名物は、ズバリ「トンスル」。いわゆる糞酒である。
トンスルとは、Kの国が起源とされる薬用の酒だ。
Tは、水薬であるトンスルを、ビールのように飲みやすく、ワインのようにおしゃれに楽しめる酒にしようと試行錯誤を繰り返した。
2年に及ぶ臥薪嘗胆の末、Tは最高のトンスルを製造することに成功したという。