1 1/3 (sage) 2016/03/11(金) 17:47:50 ID:.LxphPw.
ツツジの花が咲いている。
その赤い大きな花に目をとめて、Kが立ち止まる。
『ねえねえ、Yくん』
『なんです?』
『赤いツツジの花言葉』、指さしながらKは言う。『なにか知ってるナリか?』
『いえ、知りませんね』、僕は微笑してこたえる。『なんでしょう?』
Kは頬を染めると、両手をうしろにやって僕の前に回る。
『恋の喜び、ナリ!』
『恋の喜び?』
『そう』、うなずくとKはその大輪の花をそっと手のひらに載せる。『とってもステキな言葉だと思わないナリか?』
ポエムを嗜むKが、時折夢見る乙女のようなことを言い出すのは常だ。
苦笑しながら同意すると、Kはうつむいて小さな声で言う。
『……ねえ、Yくん』
『なんです?』
『来年も、一緒にこの花を見るナリ!』
Kはぱっと顔を上げると、僕に言った。
『再来年も、その次も、そのまた次も、ずぅーっと、一緒にこの花を見るナリ!』
『喜んで』
Kの頬がツツジの花のように赤く染まる。
きっと僕も同じくらい、赤い頬をしていたにちがいない。
そうだ、僕らは確かにあのとき誓い合ったのだ。約束したのだ。ずっと花を一緒に見ようと。
遅い春に開くその花を、手をつないで一緒に見ようと。
だのに、そう、どうして――