ココア (16)

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3 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/04/09(土) 10:00:19 ID:XTX.YoHw

父洋と唐澤貴洋との間の空気はさながら無菌室のそれであった。
それは自然とはとても言い難いものだったが、しかしその歪さによってこそ、ある種の純化した関係として昇華されているようだった。
これまで僕は、いわゆる社会の「毒」とはあまり縁のない生活をしてきた。愛想笑いを浮かべ他人と適度な距離をとり続けること、社会で暮らしていくにはこれが一番頭のよいやり方のように思えた。弁護士という職業はいかにも社会の「毒」と向き合っているように見える。でもそれはあくまでも体裁としてのみに留まる。普段は事務仕事ばかりだし、開示請求などをこなしていればわざわざ矢面に立たずとも十分にやっていける。情けない自分から目を背けるために弁護士という聞こえのよい体裁にすがってうすっぺらな自尊心を守ってきたということ…。その自覚は薄々あるが、それを自ら認めるのは自傷行為のようなものだった。 それに加えて、こんな仮定までしてしまう。もしも、この社会の構造そのものが、「毒」のようなものだったとしたら。その仕組みに寄与している弁護士という職業もまた……。
そこまで考えたところで無理矢理思考を停止させた。
こんなクソみたいな悩みなんてのは時間の無駄でしかない。
今日もまた、僕は目の前の事務作業を黙々と片付け続ける。余計なことはなにも考えるな。いくら考えようがどうにもならないものはどうにもならないのだし、そんな自覚が有ったところで自らの無能が許されるわけでもないのだから。

「 あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! ) 」

突然、カラさんの絶叫が虎ノ門に響きわたる。
どうせまた性懲りもなくSOWAのアイスでも食べたにちがいない。床に撒き散らされた糞便を嬉々として舐めあさる洋さん。ほほえましい、ありふれた昼下がりの風景。
この二人はきっと、僕みたいにこんなネクラでどうしようもない悩みを抱えたことなんて一度もないのだろう。僕にわかるのは、何人も二人の関係に割りこむことなどできないということ。そして、同様の関係を僕が誰かと築けるなんてことも決してないだろうということ。
激烈な嫉妬と羨望とが胸を突き上げる。それでも僕は二人のことをとても愛していたし、尊敬もしていた。二人のそばにいられるだけで十分に救われていた。そしてそれはこれからもきっとずっと続いていくはずだった。