唐澤貴洋の一日 (16)

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3 2016/04/15(金) 21:21:11 ID:5V/9aoNc

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パチパチ・・・
11:18 A・K
11:57 KTK
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今度は広い空間に放り出された。学校の体育館ほどの広さで、長方形だ。
「目を閉じて、蝋燭の炎がゆらゆらと揺れているところを想像してください。」
突然の電子的な声に驚いたが、どうやら奥の壁に取り付けられているスピーカーからのものからのようだ。
しかし、何を言ったのか聞き取れはしたが、理解が追い付かない。
「お前は誰ナリ!当職は弁護士だ、お前には説明する義務があります」
「もう一度だけ説明をします。目を閉じて、蝋燭の炎がゆらゆらと揺れているところを想像してください。」
どうやら話すつもりはないらしい。そもそもスピーカーの向こう側に人がいるかどうかすらも怪しい。
言われた通りに目をとじる。蝋燭は誕生日に父が用意するケーキぐらいでしか見る機会はないが、その火を息を吹きかけて消す前の様子を想像する。

「火が爆発するところを想像し、目を開けてください。」
蝋燭やケーキを巻き込んで俺の炎が爆発する。そして目を開ける。
俺はどうやら自然に座禅を組んでいたらしい。だが、それを奇妙な事とは思えなかった。さらに奇妙なことが起こっていたからだ。
俺の体がゴムまりのように座禅の状態でバウンドしているのだ。半分パニックになり、身を前に傾ける。バウンドしながら俺の体はその方向に進んだ。
「自分に羽が生えたところを想像して、空中で浮遊状態をとってください。」

スピーカーの言うとおりにする。私の動きは床から一メートルほど離れた高さで止まった。
「これは何ナリ!?説明するナリ!!」
「十秒後に目の前に敵が現れます。敵に銃を構え、撃ち殺すところを想像してください。敵は出現から20秒後にあなたに対する攻撃を開始します。」
やはり理解が追い付かない。敵とは何なのか、この状況はなんなのか、何がどうなっているのか、訊きたいことは山ほどあったがそれでも言うとおりにするしかない。

ガシャン。
部屋の中央から、檻にいれられた男が現れる。男の手にはオランジーナと拳銃が握られている。目隠しをされているのだろう、こちらには気づいていないが銃で誰かを撃とうとしている。私だろう。
目を閉じ、スピーカーに言われた通り男に意識を向ける。もうすぐ出現から20秒だ。  

ドチャッ。
肉と骨のはじける音がした。目を開くと男は檻の中で頭から血や臓器を吹き出しながら倒れていた。手に握られていた銃はもう離されており、オランジーナは檻の隙間から抜け出てこちらに転がってきている。
今開けると炭酸があふれてしまうであろう。

人を殺したという感覚はなかった。スピーカーの言うとおりにしただけであって、俺は目を閉じていたから死ぬ前に何が起こったのか分からなかった。
目の前で死んだこの男に対する情もなかった。俺とは何の関係もないし大袈裟に言ってこいつが死んだところで俺は嫌な思いをしていない。