エゴロジー (12)

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1 M4 2016/04/19(火) 22:37:52 ID:ijgHyjpo


俺に来た最初の依頼は死体の回収だった。
「~~~に行ってそこにある死体を~~~のトラックに載せろ。報酬は前金として30万、成功すればさらに30万上乗せでくれてやる。」失敗したらどうなるかは言わない。依頼者は大体そういうものだ。
俺はその時はまだ未成年でバイト気分だったが、喜んでその奇妙な依頼を引き受けた。

指定された場所に行くと黒モミアゲの男の言っていたとおり何かしらが死んでいた。深夜2時を回っていてほとんど何も見えない状態だったが死臭が漂っているのがわかる。
俺は汚れないように清掃員のような格好でこの仕事をしていた。
まず足のつま先から頭までしっかりあることを確認しようとしたが、頭を引っ張ると胴体からズルズル何かが伸びた。人間の首はここまで伸びるのか、と感心する。
次に担ぐため手の状態を確認する。手はグニョグニョに膨らんでおり、本当に人間なのかどうか怪しかった。
最後に足を確認すると、頭の時のように足もズルグチュッというような不快な音を立てながら伸びた。俺はそれでこの死体は人間ではなく動物か何かのモノだと確信した。
驚いたのは死体の事だけであって他には特に何のトラブルもなく依頼を達成した。
報酬を貰った後、親に昔言われていたことを思い出した。
「自分がやられて嫌なことは人にやってはいけない」
俺は俺みたいなやつに死んだあとトラックに載せられるなんて嫌だ。あの死体には悪いことをしてしまったな、と思った。報酬を貰い終わった後にあの死体の名前を黒モミアゲの男に聞くと素直に答えてくれた(普通依頼の事情を訊くのは御法度だ)。
いつものメモ帳にその名前を書き留めておいた。いつか謝罪の機会が来るだろうと願いながら。あ、もう死んでるんだっけ。

次の黒モミアゲの男からの依頼はある家のマットを盗んで来いというものだった。最初は家の玄関のマットという意味が分からなかったが、言われた通りに盗まないと報酬はもらえない。
さっそくその家の偵察に行く。その家は一般住宅にしか見えず、玄関前に置いてあったマットもボロ雑巾のような至って普通のモノだ。とても30万もの価値があるようには思えない。
様子見してから一か月くらいは張り込んだり情報収集をしようと思っていたが、これなら今すぐにでも盗めそうだ。
丸めて持っていく。途中高校生らしき男がこっちを見たような気がしたが気のせいだろう。
こんなマットが俺の家にあったとして、それが盗まれたところで嫌な思いはしない。拠点に持ち帰ったときそう考え正当化しようと思ったが、勝手に家のモノが盗まれるのはやはり怖いことだ。
八咫烏のポーズをとりつつマットと自分を写真で写す。ダークネットにこの写真を流した。このマットの持ち主ががんばってこの写真をみつけたら俺に盗まれてたんだ、と心からホッとするだろう。
ついでにあの死体の一件のこともメモしておいた。数年間放置していたが、今でもあの異様な死体は覚えている。例えるなら・・・ダチョウ、ダチョウのようだった。
ワードで ダチョウ****の冥福を心から祈ります という文章を書き、マットの写真と同じように流した。ダチョウの****くんが天国から俺の行いを見てくれているならきっと俺に感謝するだろう。

黒モミアゲの男からの最後の依頼は@@@@という男を殺せ、というものだった。報酬は300万が前金、3000万が成功報酬になっている、いわゆる大仕事だ。
自慢のM4A1サイレントカスタムのメンテナンスを始める。明日が本番だ。狙撃には自信がある。今までこいつで何人もの依頼をこなしてきた。そしてまた一人の依頼を達成するであろう。

「唐澤貴洋殺す」