8 唐澤 貴洋 2016/04/22(金) 21:56:06 ID:.Cz3bOoQ
兄はすごかった。なんでもできた。スポーツと勉強はもちろん、イケメンだったし誰にでも優しい模範的な兄だった。
対して俺はその真逆で、何もできない性格の悪いデブだった。
産まれる前から俺は兄に劣っていた。兄は母と父の3回目の性交の時、中出しで母が孕んだらしい。一方俺は母と父の肛姦プレイの時の垂れた精液で母が偶然――両親からしたら不幸にも、だろうが――孕んで生まれたのが俺らしい。
俺は兄と何度も比べられ、卑下されてきた。兄はその度に俺を庇ったが俺には兄が腹の中ではほくそ笑んでいるようにしか思えなかった。
それはクラスメイトに虐められ、いつもの公園でいつもの缶を口にしていた時のことだった。その日は雨が降っていただろうか
「君、兄に成り代わってみないかい?」男が話しかけてきた。
大人から知らない人に声をかけられても返事をしてはいけないだとかすぐに逃げなさいだとか教わっていたが、どうせ俺は不出来な弟なんだ、とひねくれていた俺はその男に疑怖の念を抱くと同時に興味を持った。
「成り代われるなら」「ああ、成り代われるさ」
それから手術の話を聞いた。人が臓器提供で移植された臓器を使用すると、その臓器の持ち主の個性が被移植者にも伝わるらしい。簡単に言うと胃を移植した場合元の胃の持ち主がりんごが好物だったなら、移植された人間もりんごが好物になるらしい。
それと同じように有能な者の部位を移植し、俺が有能になれる手術をするというのだ。正直言って胡散臭いと思ったし最悪俺の臓器を取って闇市場にでも出す気なんじゃないのかと思ったが別に死んだところで嫌な思いはしないので男の話に乗った。
数日後、兄が行方不明になった。そして俺は手術を受けた。
親は兄が行方不明になってから警察に捜査依頼を出したが見つからなかった。俺は嫌な思いどころか良い気味だとさえ思っていた。が、両親は違った(当たり前だが)。
行方不明になってさらに数日後、母が朝食の時口にした「なんであの子を・・・」という言葉を俺は聞き逃さなかった。いなくなるなら俺の方が良かったと両親までもが思っていたことを俺はこの時初めて知った。
俺は手術を受ける度に賢く、強くなっていった。虐められることはなくなり、周囲からも有能として認められ始めた。
13回目の手術を終えたときには両親だけでなく周囲の人間も俺の事を兄の名前で呼ぶようになった。俺も兄の名を名乗った。皆が俺は兄のような有能だとアイデンティファイしてくれる。いや、俺が兄であると。
私の中にはいつも兄がいます。
30回目の手術を終えると、男は「これで最後だ、君は完成した」と言ってきた。今までの手術費用や臓器代をどうするのか尋ねると、そんなものはいらないと言ってきた。代わりに働いてくれ、とも。