9 唐澤 貴洋 2016/04/22(金) 21:58:09 ID:.Cz3bOoQ
異能に気付いたのは男にアレをさせられてからだ。ビー玉サイズの木製の球と鉄製の球を無理矢理飲み込まさせられた。そして、排便剤を飲まされてそれらを排出すると、なんと米粒ほどの大きさに、しかも一つになってそれらは出てきた。よく見ると鉄のような木でできている、つまり鉄と木が入り混じっていた。質量保存の法則も働いていて、小さいながらに重みはある。
男は思惑通りという笑みを浮かべながら、俺がバケツに向かってそれを排便する姿を見ていた。
それからというもの国内・国外問わずどこかの公施設――それも一般男性じゃ入口にすら入れない場所だ――に連れて行かされ、変な棒を飲み込んで凝縮、排出するという仕事をこなした。仕事を終えた後は体を一時間念入りに洗浄される。変な装置にも何度かかけられた。
仕事をしてもらうと言われた時今度こそアフリカかどこかで奴隷のように働せられると思っていたが、食べて出すだけの簡単な仕事だったので拍子抜けしてしまった。それにこの仕事自体二カ月に一度やるかやらないかという頻度のみでやっていたし、今までしてくれた事に体で応えているつもりだったのに高額な給料も出してくれたので、正直本職である弁護士の仕事の方がつらい。
それに仕事のことよりもこの食べたものを凝縮する能力の事の方が気になった。
確かその日も雨が降っていた。ほんのちょっと魔がさした。俺が仕事をしている時、男や他のスーツを着た連中は俺が仕事をしているところを見ておらず、俺が体を洗浄されるところだけを見ているらしい。普段食べた棒は何らかの装置に排出しなければならないが、俺はそれに気付き棒を食べたまま仕事を終え、家に帰った。
家で宇宙ステーションに見学に行ったと言う同僚からお土産として貰ったロケットの模型を食べた。これも同僚への愛情表現のつもりでいつもやっていることだが、その日ロケットを食べたのはたまたまだ。
散歩中に草むらでそれらを排便した。この行為すらも偶然だったわけだが、奇跡的に偶然が重なると起きるのは感激か過激のどちらかだけだということをその時思い知った。
その排出物は尻から出た瞬間猛烈な勢いで空高く舞い上がっていった。
次の日の朝、ニュースではとある宗教の過激派組織の本部が虎ノ門から発射された謎の飛翔体により迫撃を受け壊滅したことを報道していたが目にもとめなかった。
昼に男から電話でもう仕事はしなくていいと優しい声で言われた。俺は男に今までしてくれた事への感謝の言葉を伝え、電話を切った。男は俺にとって、シンデレラに出てくるカボチャの魔女だ。
これからは弁護士一筋で歩んでいかなければならないが、ガラスの靴を履いた俺にはもう恐れるものは何もない。
声なき声に力を。