5 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/08/17(水) 11:13:19 ID:pnMSPPqo
あたりをいくら見渡しても先ほどいたはずの弟がいない。
弟を探した。近所の廃屋、小さな林、無人の寺、寺の隣にある墓地。
僕の家の墓もここにある。探してみるとお墓は知らない誰かに荒らされていた。ナンジェーミンのいたずらだろうか?
墓石に白いスプレーがぶちまけられている。吹き付けられた直後のようで、スプレーはまだ完全に乾いていない。
墓石の下の拝石には同じ白いスプレーで「貴洋」と乱暴な字で書きなぐられていた。
戒名碑は無事だった。僕は僕の死んだ母親と父親の名前を付け足そうと思った。
まだ乾いていない白いペンキを指に塗り、墓石に指を押し付ける。母親の名前を書こうと石面を見た僕はとても驚いた。そして大切なことを忘れていたのに気づいた。僕の弟は10年も前、僕が用水路に落として縊り殺したのだ。僕はその時からずっとひとりぼっちだった。彼の名前は墓職人の手によってミノでしっかり彫られていた。唐澤厚史ここに眠る。文字に沿って削られた溝は少し汚れていた。
「にいさん、だいじょうぶだよ。」
耳元で弟の声が囁く。今まで聞こえていたこれは悪魔の声だったのか。
僕はついでに、今朝父と母をナイフで刺し殺し油が入った鍋に火をつけたマッチを落としたことも思い出す。僕は揚げ物が嫌いなのだ。スプレーで真っ白に濡れた人差し指をひっこめた。僕は両親の死を悲しんでなどいない。ナイフを少し刺しただけですぐ死んでしまう馬鹿なやつらが僕に嫌な思いをさせたのが悪いんだ。悼むものがいなければ墓碑に名前を書く必要もない。袋に入ったナンジェーミンの生肉を喰らいながら僕は無性にイライラしていた。自分でも制御できない破壊衝動に身が震える。
僕は墓石を蹴り倒し猟銃を袋から取り出した。
「世界中がにいさんの敵になってもただ一人の味方になる」
悪魔の声がささやく。けれど悪魔は僕自身だったのだ。