武士の一門 (7)

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2 全2 2016/08/25(木) 00:08:58 ID:W78Il972

その時、当職は思いついた。
家系図。そう、家系図だ。
どうせ終わるなら、後世に影響もないことだし、好きに盛ってしまおう。
自慢ではないが、もともと唐澤家は凄い家系図を持つ。天皇家、愛新覚羅、そして創業者一族の、など。
盛る必要がないくらいと言われたことがあるが、やはり生まれた時からこの家系図の当職としてはもっと何か欲しいものである。

そうして家系図を引っ張り出し、現在腕を組んでいる。うーむ。
そういえば、武士が足りない。昔闘争心が足りない、と揶揄されたことがあったが、それはもともと当職が希薄な人間であった為であって、親族の為ではない。だが、実際に戦に欠けた家系図を前にすると先祖のせいであるような気もしてきた。
悔しいので、歴史上の人物を検索しながら適当に書き足す。武家の名門で、優れているのにあまり有名でない人物。歴史学的に不明で曖昧な点があればなおよし。これがなかなか難しいが、苦心して当職は選び抜いた。
そうして選んだ人物を、河野家の家系図、昔から伸びる血の川の中流に紛れ込ませる。
足利直冬。
よし、これで当職も武士家の血を引く男になれたわけだ。
しかし不思議なものだ。たかが少し書き足しただけなのに、何だか血が滾るような、精力が漲るような気がしてきた……………



数年後、当職は一児の父となった。
その祝いの酒席で、嬉しさのあまりひどく酔っ払った父が言う。
「いやあ、本当によかったよかった……結婚できて、子供も授かるとは……不安だったが……しかし、私も…なかなか結婚できなくて、ヤケクソになって家系図に悪戯書きでもしてたっけな…あははは……………」

まさか、昔から皆考えることは同じなのだろうか。だとしたら……