2 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/11/15(火) 19:34:35 ID:Z8fISKAk
彼とは会うたびにセックスばかりした。彼は乱暴にされることを好む。俺は排泄しているだけみたいになっていくのが嫌で、彼の自傷行為に付き合っているような感じも嫌だった。せめて朝までずっと優しくしたくて俺はいつも言う。
「泊まっていっちゃ駄目か」
「やめたほうがいいよ」
このやり取りはもう何回も繰り返されている。話したくないこともあるだろうから聞かなかったが、俺はついに「どうして?」と尋ねた。
「僕、夜中に叫ぶらしいんだ。寝てる間に絶叫して、隣の部屋から苦情が来た。悪い夢ばかり見てるからかな……僕は君に迷惑かけたくない」
俺は夜中にたたき起こされたって迷惑だなんて少しも思わない。だけど彼が嫌がるなら従うほかない。夜中に目を覚ますことがあったら電話してくれと言った。悪夢の後はどうしようもなくひとりだから。
十月と十一月が流れるように過ぎ去り、十二月になった。今年もあともう僅かだ。年末が近づくにつれ仕事が忙しくなった。今月に入ってから俺は一度も彼の家に行けていない。連絡も、まともにできないほど毎日疲れ果て床に就いた。長く彼の部屋を訪れていないという罪悪感が、ますます俺を彼から遠ざけていく。そうやって最後の連絡から二週間が過ぎた。
久しぶりに休みが取れた日の前の晩、
>ずっと都合つかなくてごめん。明日行く
とメッセージを送り、次の日の午後、彼の部屋に行った。しかし、彼はいない。電話をかけたがそのたびに留守電に転送された。どこへ行った? ……俺のせいか?
スマホを確認すると、送ったメッセージはまだ既読になっていない。寝室に行き触れたシーツは冷たい。いや当たり前か、くそ、冷静になれ。コーヒーマシーンには充分に豆が入っているし、冷蔵庫にも食べ物がある。ごみもそのまま、灰皿の横には買ったばかりの煙草。大丈夫だ、ちゃんと生活してた。大丈夫だ、自分で死を選んだりしてない……でも、一体何処へ行ったんだ、教えてくれよ、お願いだ連絡をくれ。俺は三秒おきにスマホを確かめ、彼が帰ってくるまで玄関の前にへたり込んでいた。
夕方、彼は帰ってきた。俺は三時間も床に座り続けていたらしい。
「どこへ行ってたんだ」
「病院だよ。家の前にタクシーを呼んだ」
「病院……?」
ほっとする気持ちと、連絡をくれない怒りがごちゃまぜになって混乱した。感情的になっている俺の横をすっと通り過ぎる。その背中に向かって大声が出た。
「連絡しろよ! ここ来たらあんたが消えてて、電話してもかけなおしてこねえし、お、俺がどんだけ、」
「心配した?」
脱いだコートをハンガーにかけている彼に「当たり前だろ!」と俺は声を荒げた。彼は帰ってきてから一度も俺に視線を向けなかったが、少し俯いたあと、俺をじっと見つめた。