496 名前が出りゅ!出りゅよ! 2020/08/08(土) 02:51:50.53 ID:FKyZIiJJ0
「先輩なんですか、そうですか」敬語に戻ったものの、
チンフェらしい口調はそのままだ。
「完全に偶然出くわしてしまのでね、びっくりしました。
少し話しませんか?」
「仕方ないですね」
町工場の出入り口から歩いて三十秒のところにある自販機で立ち止まった。
古い町工場の建物に馴染まないやけに綺麗な自販機だ。
黄色いレモン味の清涼飲料水を二本買って片方をチンフェに渡した。
「どうも」
瓶に張り付く金属のふたをねじ切って開け、中身をのどに流し込む。量が少ないので、
もちろん一気飲みだ。チンフェも一息で飲み干した。
「……まぁ、よく働き口見つけましたね」
「酷い言い方ですね」
「実際そうじゃないですか」
「ま、ここコネなんですよ。コネでもここしか入れなかったんで、
面倒ですが仕方なく、まじめに働いてますよ」
チンフェは慣れた様子で、ゴミ箱に瓶を放り投げた。
瓶はゴミ箱に吸い込まれていった。
投げる姿は美しかったが、顔ですべて台無しだ。
ちなみに私はゴミ箱まで歩いて捨てた。
放り投げた左手の薬指には指輪がはまっていた。
「結婚してるんですね」
「結婚できないと思ってたんですけどね、できちゃいましたよ」
私の薬指に指輪が付いていないと見るや否や、
チンフェはニヤニヤと笑って話してきた。
どことなくムカつく性格は現実の世界でも健在だった。
というか、なに結婚してんだよ、はよ離婚してしまえや。