567 1/3 2021/05/07(金) 05:00:09.84 ID:hbDE6JSq0
久しぶりに手紙が届いた。何かと思って読んでみると、昔同じ事務所で働いていたあいつの訃報と、通夜の案内状だった。
とはいえ、あいつが死んだこと自体は知っていた。常々殺害予告をされていたあいつが、本当にナイフでメッタ刺しにして殺されたというニュースは、様々な所で報道されていたからだ。
しかし、あの騒ぎからすれば必ず家族葬をするはずなのに、なぜ招待状なんか送ったのか。
そう疑問に思いながら差出人を見て、すぐに納得してしまった。
会場にいた人は意外と少なかった。
しかし、それも仕方ない。仕事をへまして大炎上を起こし、それでもなお子共のように罪を認めず喚き続けたあいつには、人間関係という贅沢など覚える余地もなかったのだろう。
席は特に決まっていないらしく、少し迷って端の席に座った。
それから通夜の儀式が一通り終わり、会食の時間となった。
あいつの父親が席を案内してくれた。向かい側に座っていたのは、訃報と案内状の差出人だった。
「お久しぶりです。」
「ああ、久しぶりだな。」
会話は弾まなかった。
俺たちだけでなく、会場全体が静かに食事をしている。
その原因もやはりあいつだ。通夜に呼ばれるほどあいつと親しかった奴らは、みんなあいつの炎上に巻き込まれ、嫌な思いをしている。
宴会場にあった寿司はあいつの高級嗜好に合ったものだったが、雰囲気が悪いと料理は非常に不味くなることを知るために消費された。
「バーに行きませんか?」
二十一時前、通夜がお開きになり、二人きりになった葬儀場のロビーで、彼はそう言った。
「思えば、事務所が解散になってから全然会ってませんでしたよね。話、聞かせてください。」
仕方ないな、と了承して外に出る。地面を照らしていた月が雲に隠れ、すぐに見えなくなってしまった。
バーでも会話はあまり弾まなかった。最近の依頼や、事務所の様子について互いに質問したり話したりするのだが、2、3回会話するだけで終わってしまう。
昔の話もできなかった。彼は性処理のための道具としてあいつに雇われていただけであることは俺も気づいていた。
毎週、酷いときは毎日、事務所から一緒に出ていく二人。あいつと彼が近づくたびに聞こえる、あいつの気持ち悪い声と彼の何かを我慢しているような声。
そんな状況だったのだから、彼が俺と一緒にあの事務所をやめたのはむしろ正解だったといえるだろう。
だが、そんな事、あいつの通夜が終わり、葬式を控えた状況で言える訳がない。
外からは雨が地面を打つ音がしてきた。それが店内の環境音と混じるうちに、どうにもならない気持ちが胸の底から押し上げてくる。
その思いを忘れるためか、俺も彼も酒をかなり早いペースで飲んだ。