568 2/3 2021/05/07(金) 05:04:45.58 ID:hbDE6JSq0
二時間ほど経ったところで、彼は一杯のカクテルを注文した。
「お前も、カクテルなんか飲むんだな。」
「そんな意外そうに言わないでくださいよ。」
彼が苦笑したのを見て、彼の表情が今初めて変化したことに気づいた。
すぐに、バーテンダーがカクテルグラスをカウンターの上に置く。
「コロネーションでございます。」
彼はそのグラスを、決意を固めたかのように持ち、一気に傾けた。
「豪快な飲み方だな。」
彼はその言葉を無視して、俺に語りかけ始めた。
「あなたは、「河童」の最後に出てくる詩を知っていますか?」
「ああ、知っているぞ。「椰子の花や竹の中に……」とかいう奴だろう?」
「そう、それです。」
「それがどうかしたのか?」
「いや、僕はその詩をもっと直喩的に訳したことがあるんですが、それに対する疑問が湧いたんですよ。」
「まったく、お前は本当に文人だな。日本の孔子でも目指しているのか?」
「いやいや、そんなことはないですよ。ただの好奇心です。」
「そうか。じゃあ俺も好奇心で聞くが、その直喩的な詩というのはなんだ?その疑問というのは?」
「はは、そんなにがっつかなくてもいいじゃないですか。まずは僕の訳だけでも聞いてください。」
そう話すと、彼は本を見るような仕草をしながら、詩を諳んじた。
—―静かな繁殖と生命力の中で
道徳はとうになくなっている。
目も向けられぬ儚さと共に
救済ももうなくなったらしい。
しかし我々はこれから死ななければならない
たとえ現実が我々の中にあったとしても。
(そのまた現実の裏を見れば、継ぎはぎだらけの歴史書ばかりだ?)——