初心者投稿スレッド☆1 (1001)

←← 掲示板一覧に戻る ← スレッド一覧に戻る

883 名前が出りゅ!出りゅよ! 2022/08/06(土) 09:22:52.53 ID:ME4gZqFE0

公衆トイレから出たとき、僕の影は少し伸びていた。僕が帰ろうとした時、お姉さんは言った。
「たかひろくんの思い出」
「え?ナリ」
「さっきの答え。私が住んでいる場所。そこでしか生きられないんだ」
何を言っているのか分からなかったけど、僕はもうこれっきりこの女の人と会えない気がした。
「また会えるナリか?」
「そう望めばね」
どういうこと?そういえばお姉さんの名前を聞いていなかった。
「……お姉さん!」
勇気を出して振り返ると、ひぐらしの鳴く声以外はなんにもなかった。僕はまたひとりぼっちになった。

それから30余年が経った。
たかひろはすっかりその女性のことを忘れて仕事に勤しんでいた。
そう、ニコニコ超会議で彼女に会うまでは。

「たかひろ!サインお願いします!写真も!」
聞き覚えのある声がして振り返ると、あのときのお姉さんがいた。その正体はツイッターで馴れ馴れしく絡んでくる女性ファン、ななののだった。
でも、僕が小さい頃に20,30代だからもうあの女性は60前後のはず。この人とは違う。そう思ったが、声も顔もあの時のままだった。そんなはずないと言い聞かせたが、耳と心ははっきりあの時のことを覚えていた。恥じらえさえも昨日のことのように思い出された。

事務所に帰ってからもななのののことが頭から離れなかった。
たかひろはヨギボーに身体を預け、火照った下半身を優しく撫で始めた。間違いない。あの人はななののさんだったんだ。
ななののさん、あなたは当職に会うために生まれてきたのですね。あの時、僕の記憶から時間を超えて会いにきたのですね。
顔も声も仕草も口の温もりも、急に全てが愛おしく感じられた。あの時言えなかったことを今なら言える気がした。
会いたい。
あぁ!ななののさん……!!僕はあなたをひと目見た時から、そしてそれからずっと僕は…………
溢れる想いは津波のようにたかひろを襲い、机に散らばっていた紙を2,3枚掴んで息子に宛がうのがやっとであった。1週間ぶりの濃い液体は鼓動と共に暫くの間どくどくと流れていた。ふと手元の紙を見ると、それはななののからのファンレターだった。万年筆のインクがたかひろのミルクに溶け出し、わずかに青みがかって広がった。ななののが下書きに下書きを重ね、何時間もかけて綴った想いも、成人男性の一発を前にしてはあまりにも無力だった。
悪いことしたかな。
でもまああいつのことだしまたすぐに手紙を送って寄越すだろう。
汚れた手紙をくしゃくしゃっと丸めてゴミ箱に投げ入れた。
「ななののもあの時の女も、よく考えたらブッサイクだったな」

それより腹が減った。その時だった。
ピンポーン
「来たナリ!」
たかひろは下半身を露出したまま笑顔でインターホンに駆け寄った。「今日は何をご馳走してくれるナリか?」
たかひろが鰻だったものを食したのはその15分後のことであった