8 がん患者さん 2016/08/26(金) 00:12:10.92 ID:k8xyylZhI
とある上級国民の家族が引越しをすることになったのだが、その際に貴洋が愛していた弟の厚史が悪芋たちによって殺されてしまった。
それから彼は弁護士となり、やがて厚史という弟の存在を忘れかけていた。
そんなある日の夜、家に電話がかかってきた。両親がまだ帰宅していないため、貴洋が電話に出る。
「もしもし。」
「…。」
「もしもし?どなたですか?」
「僕ATUSHI。今、ゴミ捨て場にいるの。」
「えっ?!」
ガチャ…。
電話はそこで切れてしまった。
厚史といえば、私が失くしてしまったあの弟だ。いたずら電話だとは思ったが、なんとも不気味だ。
すると直後、また電話が鳴り響いた。またきた…と思いつつも、両親からの電話かと思って貴洋は受話器をとった。
「もしもし、お母さん?」
「僕ATUSHI。今、神谷町駅にいるの。」
ガチャ。
また電話が切れる。
神谷町駅といえば、貴洋が住んでいる地域の駅。いたずら電話にしては何かがおかしいと、貴洋は思い始めていた。
そしてまた電話が鳴り響く。また厚史なんじゃ…と思ったが、貴洋は母親からの電話だと自分に言い聞かせて受話器をとった。
「もしもしお母さん!?早く帰ってきて!!」
「僕ATUSHI。アンジェリックカフェの前にいるの。」
ガチャ。
アンジェリックカフェといえば貴洋の家からすぐ近くにあるお店だ。貴洋は、いたずら電話の主が次第に近づいてきている事に、この時気づいた。
言いようのない恐怖が彼の心を蝕み始めた。
何かヤバい…と思った貴洋は、母親の携帯電話へ連絡しようと受話器をとった。するとほぼ同時に電話が鳴ったため、電話を受けてしまった。
恐る恐る受話器を耳に押し当てる。
「…はい…。」
「僕ATUSHI。今、お兄ちゃんの家の扉の前にいるの。」
ガチャ。
彼は戦慄した。貴洋という自分の名前を言った上に、なんと自分の家の扉の前に、電話の主は来ているのだという。
あまりの恐怖に貴洋は電話の線を抜き、インターフォンから外の様子を伺った。
外には誰もいない。
居てもたってもいられなくなった貴洋は、玄関の鍵がかかっていることを確認して、自分の部屋に閉じこもろうと階段に足をかけた。
するとその瞬間、電話線を抜いたはずの電話が鳴り響いた。
鳴るはずのない電話が鳴った。もうわけがわからなくなった貴洋は、恐怖と怒りを露わにして電話に出た。
「あなた一体なんなのよ!いい加減にして!!」
「僕ATUSHI。今、あなたの後ろにいるの。」
貴洋は振り向くとそこには厚史がいた。
「厚史なの…か?」
「うん。」
「なんでここにいるんだ?」
「最近僕のこと忘れてたでしょ。ちょっとおどかそうと思ってさ。」
「そんなことか。忘れてなんかいないさ、ずっと会いたかった。」
「えっ。」
貴洋がすぐに視線を彼からそらした。
すぐに厚史は兄の視線の先のものを見るため振り向くと机の上にあったうすく埃の積もっている黒色の写真立てがあるのを見つけた。それは貴洋と二人で写った色あせた写真だった。それを見てなぜ貴洋が弁護士になった理由を気づくのには長い時間はいらなかった。彼は涙を流しながら貴洋を抱きしめた。
「ずっと僕のこと忘れてなんかなかったんだねお兄ちゃん…」
「ああ…当たり前じゃないか」