詩を詠む (6)

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3 野に咲く名無し@転載禁止 2024/10/15 (火) 19:40:14.431 ID:8VV9jbCJX主

五月(ぐわつ)は好(よ)い月、花の月、
芽(め)の月、香(か)の月、色の月、
ポプラ、マロニエ、プラタアヌ、
つつじ、芍薬(しゃくやく)、藤、蘇枋(すはう)、
リラ、チュウリップ、罌粟(けし)の月、
女(をんな)の服のかろがろと
薄くなる月、恋(こひ)の月、
巻冠(まきかんむり)に矢を脊負ひ、
葵(あふひ)をかざす京人(きやうびと)が
馬競べ(うまくらべ)する祭月(まつりづき)、
巴里(パリイ)の街の少女等(をとめら)が
花の祭に美くしい
貴(あて)な女王(によわう)を選ぶ月、
わたしのことを云ふならば
シベリアを行き、独逸(どいつ)行き、
君を慕うてはるばると
その巴里(パリイ)まで着いた月、
菖蒲(あやめ)の太刀と幟(のぼり)とで
去年うまれた四男目の
アウギュストをば祝ふ月、
狭い書斎の窓ごしに
明るい空と棕櫚(しゅろ)の木が
馬来(マレエ)の島を想はせる
微風(そよかぜ)の月、青(あを)い月、
プラチナ色の雲の月、
蜜蜂の月、蝶(てふ)の月、
蟻(あり)も蛾(か)となり、金糸雀(かなりや)も
卵を抱く生(うみ)の月、
何やら物に誘(そゞ)られる
官能(くわんのう)の月、肉の月、
ヴウヴレエ酒の、香料(かうれう)の
踊(をどり)の、楽(がく)の、歌の月、
わたしを中に万物(ばんぶつ)が
堅く抱きしめ、縺(もつ)れ合ひ、
呻(うめ)き、くちづけ、汗をかく
太陽の月、青海(あをうみ)の
森の、公園(パルク)の、噴水の、
庭の、屋前(テラス)の、離亭(ちん)の月、
やれ来た、五月(ごぐわつ)、麦藁(むぎわら)で
細い薄手の硝杯(こつぶ)から
柘榴水(ざくろすゐ)をば吸ふやうな
あまい眩暈(めまひ)を投げに来た。

アウギュストは四男の名前