【インターコンシェルジュ】高橋嘉之【へきへき】 (144)

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70 ヽ ( (c :; ]ミノ (sage) 2016/12/07(水) 23:30:19.09 ID:tZd1DRuL0

10時半になって、店内の客足がとぎれるのを待っていたかのように、
父と子の3人連れが入ってきた。
2人とも見違えるほどに成長していたが、父親は色あせたあのヤンキースの半袖パーカー姿のままだった。

「いらっしゃいませ!」と笑顔で迎える女将に、父親はおずおずと言う。
「あのー......かけそば......2人前なのですが......よろしいでしょうか」

「えっ......どうぞどうぞ。さぁこちらへ」
と2番テーブルへ案内しながら、そこにあった「予約席」の札を何気なく隠し、
カウンターに向かって「かけ2丁!」
それを受けて「あいよっ!かけ2丁!」とこたえた主人は、玉そば3個を湯の中にほうり込んだ。

2杯のかけそばを互いに食べあう父子3人の明るい笑い声が聞こえ、話も弾んでいるのがわかる。
カウンターの中で思わず目と目を見交わしてほほ笑む女将と、
例の仏頂面のまま「うん、うん」とうなずく主人である。

「お兄ちゃん、祐ちゃん......今日は2人に、お父さんからお礼が言いたいの」
「......お礼って......どうしたの」
「実はね、お父さんが起こした誹謗中傷で、8人もの人に迷惑をかけてしまったんだけど......
 保険などでも支払いできなかった分を、毎月5万円ずつ払い続けていたの」
「うん、知っていたよ」

女将と主人は身動きしないで、じっと聞いている。

「支払いは年明けの3月までになっていたけど、実は今日、ぜんぶ支払いを済ますことができたの」
「えっ! ほんとう、お父さん!」
「ええ、ほんとうよ。お兄ちゃんは新聞配達をしてがんばってくれてるし、
 祐ちゃんがお買い物や夕飯のしたくを毎日してくれたおかげで、お父さん安心してインターネットができたの。
 よくがんばったからって、株式会社〇英館から特別手当をいただいたの。
 それで支払いをぜんぶ終わらすことができたの」

「お父さん!お兄ちゃん!よかったね!でも、これからも、夕飯のしたくはボクがするよ」
「ボクも新聞配達、続けるよ。祐!がんばろうな!」
「ありがとう。ほんとうにありがとう」